CLOSED PANDEMIC編 第10話 カタギじゃない(´・ω・`)

 主人公はニコラスの逃げた方向を一瞥するも、それに関わろうとしないで村の方向を目指した。そして、森を抜けて村に付いたら適当な家に入り周囲の安全を確認。背負っていた少年を下した。


 主人公は家の中にあったロープを使って、腹部を撃たれた少年を縛り上げる。そして、少年にビンタを食らわせた。その衝撃で少年が起きる。少年は、主人公を睨みつける。


「ええ……この主人公怪我人になんてことしてんの」


「全くだな。倫理観が欠如しているな」


 夏帆と操は主人公の行動に呆れ果てている。この2人は操作に一切関与してないので、この主人公に対する思い入れというものが存在しない。実際にプレイして、自身の分身のように操作しているとまた違った印象を持っていた可能性は十分ある。


 主人公は少年のこめかみに銃を突きつけ、耳元に顔を近づけた。「おい、ガキ。命が惜しかったら、俺が訊くことを正直に答えろ。いいな?」と脅しをかける主人公。しかし、少年はフッと笑いかけて「殺せやしないさ。外の人間がこの村に今更来る……どうせ、ウイルスの回収が目当てだろ。わかっていたさ。このウイルスに感染した時からな」と自嘲気味に笑った。それに対して主人公は腹部の傷口付近に銃口をぐりぐりと押し付ける。少年は苦悶の表情を浮かべて、主人公を睨みつけた。


 「あんまり俺を怒らせないでくれよ。確かに俺はお前を殺せない。だけどな……俺は知ってんだよ。この世には死ぬことよりも辛くて苦しいことがあるって。どういう目に遭うとそうなるのか知りたいか? 体で教えて欲しいか? あぁ!?」と恫喝する主人公。だが、少年はそれに怯えることはなかった。「死ぬより辛いことがあるとわかっていて、なぜ不老を求め……」少年が言い終わるより先に主人公は少年の髪を掴んで引き寄せた。


 「俺は知らねえよ。ボスに訊け。会えるのかどうかは知らねえけどよ」と言い捨て、主人公は乱暴に手を離した。少年は主人公を再び睨み敵意を剥き出しにする。


「うーん。この子は多分年齢的にはお爺ちゃんなんだろうけど、見た目が子供なのにここまで痛めつけらてかわいそうだよ」


 夏帆は少年に同情を見せた。


「うーん。俺はこの少年だけを同情するのはおかしいと思うな。この主人公は元は普通の人間だった感染者たちを次々と殺していた。殺された感染者も一方的な被害者なのに、政井さんは彼らに同情してないよね?」


「そ、それはそうだけど……! そうだけど……! なんか違うでしょ!」


 琥珀の言っていることは正論じみているけれど、感情論で語っている夏帆には言ってもどうしようもない。2人のやり取りを見ていて操はため息をついた。


「Amber君。そういうとこだぞ」


 操に釘をさされる琥珀。どういうとこだか理解していない琥珀。こういう時は、自分が思った正論をぶつけるのではなく、女子に共感してうなずけばいい。頭ではわかっていても中々実践できない人もいるし、理解できない琥珀みたいな人間もいるのだ。


 「そういえば、まだ質問してなかったな。正直に答えろ。俺の機嫌が悪くなるとどうなるか……短い付き合いだけどなんとなくわかるよな?」と主人公は少年に顔を近づけた。「お前の名前を教えろ。名前がわかんないんじゃどう呼んでいいのかわかんねえからな」「別に俺の名前はどうでもいいだろう。今まで通り“ガキ”とでも呼べばいい」と顔を背けながら言う少年。「質問に答えろ。2度はねえぞ」「マクシミリアンだ」「長いな。やっぱりガキでいいや」と済ます主人公。それに対して、マクシミリアンは(だから答えたくなかった)と言いたげな顔をする。


 「裏で色々と手引きをしていたのはお前か?」「なんのことだ?」「とぼけるな」と主人公は再び銃口を傷口に近づけようとする。寸前でマクシミリアンが口を開く。「村の封鎖が解かれたのに気づいた……恐らく外部の人間が俺たちを連れ出そうとしているんだろうなと判断した。だから、俺はヒルダを連れて病室から出た。あいつか俺。どちらかが連れ去られてしまうからな」


 主人公は首を傾げて「ヒルダ?」と尋ねる。マクシミリアンは顔を少し赤らめて「ベイカー医師の娘だ……」と主人公から目を逸らして言った。「変異株持ちは他にいるのか?」「ウイルスに感染しても正気を失わず、黄疸もできない状態を変異株と言うのならば……俺とヒルダ以外にはいない。俺とヒルダは離れるわけにはいかない。ヒルダがいなかったら……俺は今頃、孤独で心が壊れていたかもしれない。きっとヒルダも同じ気持ちでいてくれるはずだ」と拳をぐっと握るマクシミリアン。


「この子絶対ヒルダちゃんのこと好きだよね? ね?」


 夏帆がなぜか急にテンションをあげてくる。恋に疎い琥珀には、今の一連の流れでどこにそんな情報があったのか全く理解できていない。しかし、それを指摘したら、また面倒なことになりそうな予感がした。だから適当に相槌を打って同意するだけに留めた。


 主人公は頭をかきながら「あー。じゃあ、熊の怪物を知ってるか?」と尋ねる。マクシミリアンは少し考えた後に「K-UMAのことか。あいつの正体は俺にはわからない。でも……まあ、見た目が怖いだけで大人しいやつだよ。お前達も危害を加えられなかっただろ?」その一言を聞いた主人公はマクシミリアンの胸倉を掴んだ。「あぁ? なにが危害を加えられないだよ。アレで危害を加えてるつもりがないなら、これも危害じゃねえだろうよ!」とマクシミリアンを怒鳴った。マクシミリアンはなんで胸倉掴まれて怒鳴られているのか理解できない表情をしていた。


「なんでこの主人公急にキレてんの……」


 操作している琥珀ながら、この主人公の心情は理解出来てない様子だ。


「うーん。何度も熊の怪物に襲われているし、それでイラついているんじゃないのか?」


「確かにそれはあるかもしれませんね」


 操の考察に琥珀は納得をしてみせるのであった。実のところは、アウトローは沸点が低いというだけだったりする。


 「待て……あの熊はお前達には一切の危害を加えてないんだよな?」と主人公が確認する。「ああ」とマクシミリアンが返事をすると、主人公はなにやら考え始めた。(恐らく変異株に感染しているであろう2人には一切危害を加えていないだと……? 俺は、熊から逃げるために、ヒルダを置いて逃げていった。しかし、仮に熊が絶対にヒルダに危害を加えないとしたら……ヒルダはまだ生きているのか? でも、不可解なことがある。ヒルダを担いでいる時は、熊は俺に襲い掛かる勢いだったけれど、このガキを担いでいる時は全く襲われる気配がしなかった。なにか違いがあるのか?)


 主人公は思考の渦に飲み込まれた。しかし、考えてもすぐに結論がでるはずもなく。無駄に時間が過ぎていくだけだった。


「あの熊の化け物悪い人しか襲わないんじゃないのかな!」


 夏帆が呑気なことを言う。


「じゃあ、善悪の判断はどう付けているんだ?」


 琥珀が真っ当なツッコミを入れる。それに対して、夏帆は答えが思い浮かばずに困ってしまった。


「マクシミリアンも熊の化け物の正体を知らないのは気になるな。あの熊は一体どういう存在なんだろうな」


 考察好きな操もゲームの世界にのめりこんでいる。マクシミリアンから情報を得たけれど、それでも全ての真実を明かすに至らなかった。


 「おいガキ。お前も感染者に狙われているのか?」と主人公が訊く。「いや。俺も変異株とやらに感染してからは襲われなくなった」と返すマクシミリアン。「そうか、ならここに放置しても大丈夫だな」と言い残して、縛られた状態のマクシミリアンを置いて主人公は家から出ていくのであった。

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