CLOSED PANDEMIC編 第8話 主人公の正体
ニコラスが主人公の首筋を見て「噛まれてないか?」と確認する。主人公は、首を見せて「ああ。大丈夫だ」と答える。「気を付けろよ。いくらワクチンを接種したとはいえ、その効能は完全じゃない」とニコラスが頭を掻く。主人公は「ああ。わかってる」と返した。
ここで主人公が操作可能になった。琥珀が移動キーを押すと、主人公の後にニコラスが着いて行ってる。その状態で小屋を出ると、中学生くらいの子供のような外見をした黒髪の少年が現れた。
少年を見たニコラスは「なんだこのガキは」と近づく。少年はそれに対して、「ガキじゃない。お前らよりも遥かに年上だ。よそもの」と言い後ろ手で隠し持っていたチェーンソーを取り出して、起動させた。ウィイイインという音が聞こえて、少年はニコラスに襲い掛かった。
「ひ、ひい!」
夏帆が悲鳴をあげて目を手で塞いだ。普通に目を瞑ればいいだけの話なのに、手で顔を覆う必要性とは一体なんなんだろう。そう疑問に思う者も少なくない。
ニコラスはチェーンソーの攻撃を避けて「危ねえな! このガキ!」と言い放ち、銃を構えた。主人公は「よせ!」と制止した。そして、続けて「こいつは変異株持ちの可能性がある。殺すんじゃない」と付け加えた。
ニコラスも納得できたのか銃をしまう。だが、少年の攻撃は止むことはなかった。ニコラスは深い森の奥へと逃げていった。少年もそれを追いかけるようにして進んでいく。主人公も少年を追いかけようとした……その時だった。
森の茂みから病院内にいた熊の怪物が現れたのだ。そして、例によって主人公を襲いにかかる。
「今なら銃を持ってるから勝てるかも?」
琥珀が呑気なことを言うが、主人公の考えは逆だった。銃を持ってようがなんだろうが、熊から必死で逃げるムービーが入る。そして、主人公が転んだ拍子に坂から転がり落ちる。痛みに苦しがる主人公だが、転げ落ちた先にまでは熊は追ってこなかった。不幸中の幸いで逃げ出すことができたが、ニコラスとまた逸れてしまう。
「あのハゲ……本当によく離脱するな」
琥珀がハゲに対して文句を言った。それに対して、操も少しクスっと笑った。
「確かにな。折角一緒に行動できると思ったのに」
この状況を楽しんでいる2人に対して、またもや単独行動になることで不安になる夏帆。ホラーゲームが平気な人とそうでない人は思考的に相容れないのだ。
主人公が転がり落ちた先は川だった。主人公が川に沿って歩いていると、ベイカー医師の娘が川に素足をつけてちゃぷちゃぷと脚をバタつかせていた。主人公に気づいたベイカー医師の娘は「あ、お兄さん……」と呟き、切なそうな表情を見せた。
主人公は敵意を見せないようにニッコリと笑い、ベイカー医師の娘に近づく。しかし、娘は急に川から足を出してすぐ様に靴を履き後ずさりをした。「来ないで!」と主人公を拒絶した。
急に拒絶されて不思議そうな顔をする主人公。「急にどうしたんだ?」と話しかけるも、娘は足早に逃げ出す。それを追いかける主人公。相手は少女でこちらは成人男性。すぐに追いつき、主人公は娘の腕をがっしりと掴んだ。
「なんかこのシーン。犯罪チックだね」
夏帆が何気なくそう言った。確かに、か弱い少女の腕を掴む成人男性の図は事案に映ると琥珀も操も納得するのであった。
主人公はポケットから薬を取り出して、それを強制的に娘に飲ませた。すると娘は、ガクっとして動かなくなった。主人公は「眠ったか……」と呟いて、娘を地面へと寝かせた。
「え? なにこれ。どういうことなの?」
夏帆は慌てている。主人公側が正義という先入観があった夏帆なだけに、この展開は衝撃的過ぎた。嫌がる少女に無理矢理薬を飲ませて行動不能な状態にする。明らかに犯罪者側の行動だ。
「ああ、そういうパターンか……」
操がそう呟く。チャプター2を見てないはずの操もこの状況を飲み込んでいる。当然、ストーリーを追っている琥珀もある程度は予測がついていたので頷いていた。
主人公は娘を担ぐと、そのまま村の出口へと向かっていった。「チッ……重いな。手間かけさせやがって……」と悪態をつく主人公。そして、画面全体がセピア色になり、回想シーンが始まった。
――
見るからに高級なスーツを着て、柄の悪い大男。それが椅子に踏ん反り返って葉巻を吸っている。
「ボス。健康のために葉巻は辞めたんじゃないんですか?」
主人公が指摘をすると、ボスはカッカと笑い、構わず火を点ける。そして、一吸いした後に話を開始した。
「こんなもん1本吸ったところで不健康にはならんよ。これから、ワシが手に入れる若返りの秘薬さえあれば、誤差にもならん。縮んだとして寿命1秒程度じゃて」
「若返りの秘薬? なんですか? それ。新興宗教に騙されてませんか?」
(ボスは老い先短い。全盛期は恐れ知らずで凄かったらしいが、俺にとっては老衰に怯えているジジイにしか見えない。だけど、幹部の連中は時の流れの残酷さを嘆いていたな)
「ほう。お前は、政府の要人が持っていた極秘の資料を新興宗教の戯言だと言うのか」
ボスは腕組みをしてニヤリと笑った。
「政府がそんな怪しいものに手を出しているんですか?」
「ああ。出している……と言うより、出していたじゃな。まだこの国が戦争していた時代。偶然、若返り作用を持つウイルスを入手した医師がいる。彼はこのウイルスの副作用の危険性を危惧して、ウイルスを持ち込みしないように厳重に管理するように国へと求めた。しかし、国は若返りの作用を持つという点に着目して、ある医師にウイルスを研究するように命じた……もちろん、医師だけで研究するのには限度がある。国は表に出てはまずい非合法なことをして、医師に協力したんだ」
「非合法なこと……ですか?」
「ああ。消されたくないのなら、この情報を知らない方がいい。お前も裏社会の人間だ。知ってはいけない情報があるのは知っておろう」
「はい」
主人公は拳をぐっと握り、汗をかき息を飲んだ。
「実験は……医師の暴走により、ウイルスが実験地の村にて蔓延。国は、まだ対処法がわかっていないウイルスが国中に蔓延することを恐れて村毎閉鎖して隔離した。その甲斐あってかウイルスは完全に閉じ込められて、外の人間には感染しなかったが。封鎖された分、内側の村は地獄じゃろうて」
「そのウイルスを俺に持ち帰れと言うのですか? 現代の医学ならより詳細な研究ができて若返りの秘薬が完成する……と」
「物分かりが良くて助かる……が、それでは、満点をあげられんな。通常のウイルスの株を持ち帰ってもらっても困る……ワシが欲しいのは、凶暴性を抑えた変異した株じゃ」
「変異株……確かに、ウイルスなら可能性はありますね」
「ウイルスも宿主が死ねば消滅する。だから、より宿主と共存できるように努める個体もおるじゃろう。ウイルスを研究していたベイカー医師は変異株の可能性を示唆していた。そして、現代医学のシミュレートの結果も、90パーセント以上の確率で変異しているというデータを叩き出したのじゃ」
「若返りのウイルス。感染者は今でも生きている可能性は確かにありますね。俺がその閉鎖した村に行き、変異株の感染者を持ち帰り、ボスに献上すればいいんですね?」
「ああ。頼むぞアンバー。ワクチンを打てば、感染は抑えられるじゃろう。後でニコラスも向かわせる……わかってるな? これはワシの命に関わる重大な任務。失敗は許されないことに……」
「イエス、ボス」
――
ここで回想が終了した。夏帆は、主人公は公的な調査員だと思い込んでいた。しかし、実のところは、非合法な裏社会の一員。ボスの欲望を叶えるために、この村にやってきただけの存在だった。
一方で、琥珀は持前の名推理でその事実に到達していた。主人公とニコラスの会話で、失敗すれば自分達がボスに始末されるであろうことを示唆するセリフ。それを訊いた時に、違和感のようなものを覚えていて、カタギじゃないなにかを感じ取っていたのだ。
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