CLOSED PANDEMIC編

チャプター3

CLOSED PANDEMIC編 第6話 彼女面する奴

 琥珀はいつものように操とメッセージのやりとりをしていた。他愛のない雑談をしているとふと操がとある話を切り出した。


Rize:Amber君は、クラスの女子に好きな子がいるのか?


 操は勇気を出しての質問。いないと答えて欲しいと必死で祈る。その祈りが天に通じたのか琥珀が答えを出す。


Amber:好きな子ですか? いませんよ


Rize:そうなのか? でも、この前、真鈴から聞いたけど、クラスの女子を家に連れ込んだそうじゃないか


 冷静に考えると弟子のプライベートに過干渉しすぎる病んでる師匠である。しかし、ここで琥珀の鈍感さが功を成して、操のこの奇行を疑問に思うことはなかった。


Amber:ああ、元々は男友達も誘っていたんですけど、急に来れなくなったので2人で遊ぶことになったんですよ。だから、政井さんが好きだとかそういうのはないです


Rize:ふーん。Amber君と一緒にいた子は政井さんという名前なんだ


 琥珀はそうでないかもしれないが、政井さんとやらが琥珀のことを好きな可能性がある。そう思った操は夏帆にいい感情を抱かなかった。


Amber:あ、でも。政井さんはエレキオーシャンのファンなんですよ


Rize:そうなのか! それはとてもいい子だな!


 熱い掌返しをする操。そこで操にある悪い考えが浮かんだのだ。


Rize:Amber君。また、その子と一緒にゲームをする予定はあるか?


Amber:そうですね。ゲームの続きが気になるとか言って、また一緒にゲームをする約束をしてますね


Rize:それは2人でか?


Amber:ですね。男友達の方が自分でゲーム買ったとかアホなことを言い出したので、多分来ないと思います


Rize:それじゃあ、私も一緒に混ざっても平気か? ファンの子に会ってみたいんだ


 冷静に考えると意味不明すぎる提案。クラスメイト同士が遊んでいるところに、姉の友人が割って入ってくるなんて中々起こりえないことだ。しかし、今回は事情が違った。


Amber:師匠がですか? うーん。政井さんなら喜んでくれるかな


 琥珀は、操がエレキオーシャンファンの夏帆のために、そう提案してくれたと解釈したのだ。ファンサービス精神が旺盛だと、自身の師匠を見直した。しかし、実のところ、操の目的は夏帆にファンサービスをすることではなく、琥珀に会う口実を作るために夏帆を利用したのだ。


 そんなわけで、夏帆との次の約束の日。琥珀は、操が一緒に遊びたいと言っている旨を夏帆に伝えた。当然、リゼが最推しではないとはいえ、エレキオーシャンファンの夏帆。断る理由もなく、二つ返事で興奮気味に了承した。



 琥珀の部屋でそわそわして落ち着かない様子の夏帆。前回は最推しのマリリンに不意打ちで会えたことで喜びを得た。今回も推しているグループのメンバーに会えると知って胸が高鳴っている。そんな夏帆の様子を見て琥珀が一言。


「政井さん。トイレ我慢してるの? トイレはこの部屋を出て、突き当りを右に曲がったところにあるよ」


「別に我慢してない!」


「そう。なんか漏らす寸前の犬みたいに落ち着きがなかったから」


 琥珀としては、トイレを我慢している女子を気遣ったつもり……しかし、夏帆は琥珀の発言に呆れるのであった。


 そんな会話をしているとインターホンが鳴る。琥珀が「ちょっと待ってて」と夏帆に伝え玄関に出る。扉を開けるとそこにいたのは、例によってお洒落をしている操の姿だった。琥珀は、ファンの子に会うためにおめかししてきたんだと解釈して、特に触れることはなかった。


「その……Amber君……来ちゃった」


 彼女が彼氏に言うかの如くの「来ちゃった」発言。普通の男子ならば、つい意識してしまうようなセリフでも、琥珀は見事にスルーする。


「既に政井さんが待ってますよ。さあ、あがって下さい」


「あ、お邪魔します」


 初めて賀藤家にあがる操。真鈴のゴミ屋敷にあがることはあっても、その実家には行く予定がなかった。なので、緊張の一瞬だ。賀藤家の空気を肌で感じた操は、なんだかいけないことをしているような気になる。


 そして、琥珀の部屋にあがる操。琥珀の部屋には既に夏帆が正座で待機していた。


「あ、リ、リゼさん! お、おひゃようごじゃいましゅ!」


 昼なのに、なぜか朝の挨拶をして、しかも噛んでいる夏帆。


「ふふ。面白い子だな……あれ。キミは確か私のライブに来てくれたことがあったよね?」


「ひ、ひひゃ。お、覚えていてくれたんですか!」


 琥珀が無感情の殺戮マシーンの表情だと評している夏帆だが、推しの前では単なるミーハーな女子高生に過ぎない。


「これでも記憶力はいい方だからな。そうか。キミの名前は政井さんって言うんだな」


「は、はい。政井 夏帆です」


「じゃあ、夏帆ちゃんって呼んでもいいかな?」


「ひゃ、ひゃい」


 推しているバンドのメンバーに存在を認知されていただけでなく、名前まで憶えてもらえて夏帆は大変満足そうだった。普段は失礼な発言ばかりの琥珀だが、彼の持っている人脈のお陰で夏帆は推しに会うことができた。その点は感謝の念を抱かざるを得ない。


「ところで夏帆ちゃん。アン……琥珀君とは、いつからの知り合いなんだ?」


「えっと……高校にあがってから知り合いました」


「そうか。私は琥珀君が中学の時から知っている」


「は、はあ……そうですか」


 謎のマウントを取ってくる操。流石にこのマウントは意味不明すぎて、夏帆は困惑している。操は夏帆の様子を見て、牽制する必要はなかったと思い少し反省をする。


「師匠はホラーは平気ですよね?」


「ああ。もちろん大丈夫だ」


「流石師匠頼もしいです。政井さんはホラーが苦手みたいなんで、上手くフォローしてあげてくださいね。この前なんかプレイ中の俺に抱き着いてきましたから」


「え?」


 衝撃の事実を聞かされる操。この女はAmber君に抱き着いた。そうした攻撃的な思考が一瞬浮かんでしまった。自身のファンの子に対して一瞬、嫌な感情を向けてしまったのを反省した操。しかし、心のもやもやは晴れなかった。


「政井さん。怖くなって抱き着くんだったら、師匠の方に抱き着いて」


「え? いいんですか?」


「あ、あはは。もちろん構わないさ。ははは」


 誰が得するのかわからない百合の花が咲きそうな予感。そんな中、始まるホラーゲーム。


「あ、そういえば師匠はチャプター2の内容を知ってますか?」


「いや、私はチャプター1までしかしらない」


 ショコラの配信で見た範囲までか操はこのゲームの内容を知らないのだ。


「それじゃあ簡単にあらすじを説明しますね」


――


チャプター2のまとめ


熊の怪物から逃げる主人公

謎の少女に出会う

少女の正体はベイカー医師の娘……だが、どう見ても見た目と年齢があわない

ベイカー医師の娘は、謎の奇病を患っていることが判明。人より早く老けていくので少女にして、老人の外見をしていた

ベイカー医師は娘の奇病に対抗するために、ウイルスを用いて村人たちを実験台にしていた。ウイルスの凶暴性を取り除いた変異株を作り出すために

事実を知った主人公は、少女を探し出した。しかし、少女は病院を既に脱出していた

主人公が少女を追う過程で、友人のニコラス(ハゲ)と合流する。ニコラスから銃を渡されたので、武器がバールから銃にグレードアップ

2人で少女を追うところでチャプター2終了


――


「まとめ、ありがとう。結構複雑なストーリーになりそうだな」


「ええ、そうですね物語がどんな結末を迎えるのか予想がつきませんね」


 今後の展開をある程度予測する琥珀と操。そんなことはいいから、さっさとストーリーを進めて欲しい夏帆。全てを知っている制作者のみなさん。それぞれの想いが特に交錯することなく、ゲームは再開される――!

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