『中学生時代からの友人』 リゼとフミカ
エレキオーシャンのリゼとフミカは、中学生時代に出会った友人同士である。高校は別の学校に進学したが、それでもたまにお互いの近況報告をするくらいには仲が良かった。
フミカは中学生当時から真面目を絵に描いたような女子で成績も優秀だった。地頭の良さではリゼも引けを取ってはいなかったものの、やはり勉強量でフミカに軍配が上がるといった差がついていた。
正に落ち着いた大人の女性と言った感じのフミカと身長が足りないせいで大人に見られないリゼ。その2人は今、リゼの家でくつろいでいた。
「リゼ。例の彼とはどうなったのですか?」
「へ? れ、例の彼って?」
急に話を振られて慌てふためくリゼと落ち着いて紅茶を口に含むフミカ。
「前にリゼの様子がおかしい時があったでしょう。その時に、好きな人がいる流れになりましたよね?」
「あはは。そういえばそんなこともあったかなーって」
リゼの様子からフミカは薄々、リゼの想い人が誰なのかを気づいている。しかし、それをあえて指摘するような野暮なことはしない。本人は隠しているつもりなのだから。
「その彼とうまく言ってくれていると私としても嬉しいんですけどね」
「なんだよ。フミカは……大人の余裕ってやつか? 全く、身長も色気もある人は羨ましいな」
「そうですね」
「あっさり肯定するのな」
「事実ですから」
「フミカのそういうところ嫌いじゃない」
リゼは嘘やおべっかで取り繕う人間をあまり信用していない。ハッキリと素直に物を言ってくれる人物の方が好感がモテるという感覚なのだ。そういう意味では、マリリンのことを評価している部分もある。もちろん、その弟のことは言うまでもない。
「私のことばっかり気にしてないで、フミカはどうなんだ? 恋愛関係は上手く行っているのか?」
「うーん。どうでしょうかねえ。私はなぜかちょっとMっぽい男の子に好かれやすいんですよね」
「あー。わかる。フミカの雰囲気がちょっとS気質な女教師感あるし」
「なんですかその感じは。私は教員免許持ってませんよ」
「なんか理詰めでねちねちと責めてきそうな感じ。ダメな生徒を叱り慣れているというか」
「完全に偏見も甚だしいですよ。私、そういうことしませんからね。むしろマリリンの扱いが上手いのはリゼの方じゃないですか!」
フミカの語気が少し乱れる。それに対して、リゼは笑ってる。そしてナチュラルにダメな奴扱いされているマリリン。
「ごめんごめん。でも、実際そういうの期待してフミカと付き合ってる男の人も多いんじゃないか?」
「ああ。それはわかります。なんか物足りなさそうな視線を送ってくる子とかいますし」
「それでフラれると」
「うぐ……言い返せないですね」
「お互い見た目の評価とのギャップに苦労するなー」
「ですね」
見た目と中身が違うのは状況によっては、ギャップ萌えにもなりえるが、現実的には期待外れと言った評価を下されることも少なくない。
「でも、私たちの中で1番モテるのは間違いなくMIYAだよな」
「ええ。彼女は見た目も可愛いですし、あんまり人を悪く言わない良い子ですからね」
エレキオーシャンの最年少にして、みんなの妹分のMIYA。言動からマリリンの方が幼いと思われがちではあるが、MIYAの方が年下なのだ。
「そうだよなあ。そりゃあ、MIYAのゲーム実況のジャンルも伸びるよな」
「でも、MIYAのチャンネルが伸びているのは、リゼのお陰だってMIYAが言ってましたよ?」
「ああ。そうだな。知り合いにゲームに詳しいのがいて、どのタイトルのゲームをやれば伸びやすいとか分析しているからな。数字とかの統計を使ってるし、アナリティクスを用いたデータ分析の仕方も凄い。正直、彼の計算能力は化け物染みている。特別にその情報を貰って、流してあげたんだ」
Vtuber月丘イェソド。Vtuber界隈で言うところのリゼの息子。その能力の高さは一介のVtuberのそれを遥かに凌駕していた。Vtuber業務以外にも。ズバ抜けた計算能力と統計、分析能力を持ち入れば裏方としても十分通用するレベルである。彼の能力も凄いが、それを発掘してきた匠社長の先見の明も秀でているということだ。
「そんな凄い情報を良くくれましたよね。ライバルを増やすだけじゃないんですか?」
「もちろん、無償ではくれなかった。まあ……彼は、オタクと言う奴で……美少女の3Dモデルに目がないというか……対価として、彼専用の美少女モデルを差し出したんだ」
「……そのモデルを何に使っているのかはあえて聞きません」
以前、ショコラがゲーム実況の勝手がわからなかった頃に、リゼがそのリストを渡したことがあった。その時も、もちろんリゼがイェソド専属の3Dモデルを渡したのだ。とは言っても、新規で卸したわけではなく、何らかの理由でボツになったモデルではある。もちろん、ボツになったとはいえ、クライアントからきちんと権利を受け継いでいる。故に、譲渡権はリゼにあるので法的には問題ない。
「それにしても、リゼの人脈は凄いですね。そんな凄い人とお知り合いだなんて」
「フミカが大学行っている間にも私は働いていたからな。その分、社会人相手の人脈はあるつもりだ。フミカも仕事をしていけば、その内人脈が増えていくんじゃないのか?」
「私は一般職ですからね。人間関係が社内で完結することが多いですから。たまに社外の人がいらしても、ご案内する程度ですし」
「そうか。私はフリーになったから人脈が命みたいなところはあるからな」
「自分で仕事の裁量を決められるのは会社勤めからしたら、羨ましく思えますね」
「その分自己管理は大変だけどな」
その後もお互いの仕事の話は続いた。年長組だけあって落ち着いて話ができるし、そういう機会は重要だ。エレキオーシャンの4人が集まると大抵、1名ほどロクなことをしない奴のせいで話題が持っていかれる。精神的に成熟している者同士が、2人きりで話をするのもたまにはいいものであるとお互い思うのであった。
「あ、もうこんな時間。そろそろ私は帰らなくてはいけませんね」
「そうなのか。まあ、普段2人きりで落ち着いて話す機会がなかったからな。久しぶりにゆっくり話せた楽しかった」
「ええ。私もです。中学の時は、まさかリゼとここまで長い付き合いになるだなんて思いませんでしたからね」
「私もだ。別々の高校に行った時に、自然と疎遠になるものだと思ってたけど、バンドをきっかけにまた付き合いが生まれるなんてな」
人の縁とは不思議なものである。学生時代仲が良かったものとは疎遠になったり、逆に学生時代に付き合いがそこまでなかった者が、大人になってから付き合いが増える。そういうねじれた現象が起こりえるのだ。
マリリンがバンドを結成しようだなんて言いださなければ、リゼとフミカは再び出会うことはなかったかもしれない。そうした縁を作り出したマリリンの行動力に2人は密かに感謝しているのだ。尤も、それを口に出したら調子に乗ることはわかっているので、絶対に口に出さない。マリリンの行動力はある種の諸刃の剣なので、ある程度の抑止力は必要なのだ。
「それでは、リゼ。失礼します……」
「ああ。また来てくれ」
フミカは玄関先でリゼに一礼するとリゼの家を後にした。帰り道の電車の待ち時間。フミカはスマホを開いて、昔マリリンが送ってきた家族の写真を見た。そこに写っているのは、リゼの想い人。
顔立ちは高校生らしく可愛らしいけれど、自分の恋愛対象としてみると少し幼すぎるかなとフミカは密かに想い、リゼの恋をそっと応援するのであった。
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