第1位 里瀬 操
『出会いの季節』 里瀬 操の女子高校生時代
業者から買った新品の学生の証に袖を通す。鏡に映っているのは、父親譲りの手足の長さを持つスタイルが良いセクシーな女子高生……だったら、良かったのに。高身長な家系に生まれ落ちたが、なぜか身長の伸びが止まるのが早かったことがコンプレックスな少女は世間一般ではサイズが小さい、けれど自分にとっては適正な制服を着た自分をまじまじと見つめた。
「うーん……ん? ふへへへ」
新学期。高校1年生の春の朝。これからの学園生活のことを考えると妄想が止まらない。中学時代にそこそこ仲が良かった女友達と同じ高校に進学できたし、そこは安心できる点だ。高校生になったら。中学時代はできなかった彼氏ができるかもしれない。存在しない彼氏とのデートと制服デートをする姿を思い浮かべるだけで笑みが零れてしまう。自身の黒髪の毛先を指でくるくると回していると操はあることを思いつく。
「そうだ!」
操は、自分の兄弟にも、新鮮な制服姿を見せて感想を言ってもらおうとした。自室を出て、彼女の兄、匠の部屋を目指した。匠の部屋のドアをコンコンとノックする。中から出てきたのは、同じ遺伝子を引き継いでいるのに、体格が違いすぎる兄だった。兄は既に身支度を整えていて、爽やかな笑みを浮かべる。なにもしなくても女子の方から寄ってくるほどの
「おはよう操。制服似合ってるな」
制服姿の操を見て、なにかを察した匠はすぐ様に操のことを褒めた。それに嬉しくなった操の頬が緩む。
「そ、そうか? ありがとう兄貴」
褒められたくてわざわざ匠の部屋まで来た操。そんな中、近づく人物が1人。
「お、姉貴! 制服姿可愛いなあ。自分の姉貴じゃなかったら道で出会った時にナンパしているかも」
中学生ながらにワックスで髪の毛を固めている昴。中学生ながらに、彼女をとっかえひっかえしていて、女性関係のだらしなさが目立つ。とはいえ、きちんと別れを告げてから次の女子に行くので浮気の
「あのなあ。昴。もう少し褒め方って物があるだろ。姉をナンパしようとするな!」
「姉貴はお気に召さなかったのか。残念。でも、可愛いのは事実だからな。学校中の男子が放っておかないと思うけどね。ははは」
大袈裟に褒めてその場から立ち去る昴。操は呆れながらも褒められたことに関しては悪い気はしない。昴もそれがわかっているからこそ、女性に対して過剰に褒める節があるのだ。
「昴は相変わらずだな。誰に似たのかはしらないけど。まあ、あいつはあいつでしっかりしている部分はあるし、大丈夫だと思うけど」
匠は弟を認めつつも、やはり心配している様子だ。操と匠は個人の部屋がある2階から降りて1階に行った。1階には小学生の弟、
「司、おはよう。朝ごはんはもう食べたのか?」
「あ、みーちゃん。おはよう。うん、しっかり食べたよ。食べないと、たっくんみたいに大きくなれないからね」
「残念だったな。司。朝ごはんをしっかり食べても身長は伸びるとは限らない。私を見てみろ。そういうことだ」
「えーやだ。俺は、たっくんみたいに大きくなるんだ」
大きくなるのを夢見ている小学生男子に向けて、自虐的な爆弾をぶちこむ操。からかった司の反応を見て、少し母性本能のようなものが芽生える。
「ははは。安心しろ。司。最近、操の身長を越えたじゃないか。その内、もっとでかくなるさ」
匠が司を慰める。一方で操は小学生に身長を抜かされた事実を思い出して、悔しい想いをしてしまう。
「ところで、司。お姉ちゃんになにか言うことはないか?」
「んー?」
操は制服のスカートの裾を引っ張ったり、くるりと1回転して制服をひらひらさせたりと、とにかく制服をアピールした。
「ないよ別に」
司は操に興味を失ったのか、再びテレビを見始めた。操は精神的に撃沈してしまった。
「あはは。小学生なら仕方ないさ。まだ、そういうことに疎いからな」
操を慰める匠。最後の最後にショッキングな出来事が起きたので気分が落ち込んだまま操は家を出た。
いつもと違う通学路。これからいつも通りになる通学路を自転車で進む操。中学までは徒歩での通学であったが、高校からは自転車通学が解禁されて、またもや新鮮な気持ちになる。信号待ちの時、たまたま近くの小学校に通う少年たちと一緒に止まった。
「ねえ、あのお姉さん……高校生なのに小さくない?」
少年の1人が操に指さして失礼な発言をする。たまにあることなので、操はスルーしようとする。
「バカ、琥珀。お前、あれのどこが小さいんだよ。ボインボインじゃないか」
操は身長こそ低いものの、出るところは出ていたのである。とはいえ、初対面の人間にそれを指摘されるのも複雑な気持ちになる。
「小さいって身長の話だぞ! 下手したら俺の方がでかいかもね。ぷげらー」
その言葉に操はカチンときた。確かに最近、司に身長を抜かされたけれど、それよりも小さいこの琥珀とかいう少年に負ける気はしなかった。
「そこの小僧共」
操はギロっとした目で少年2人を睨みつける。それに威圧されて、少年は思わず「ひっ」と狼狽えてしまう。
自転車を停めた操は降りて少年たちに近づく。そして、少年たちの前に仁王立ちする。
「私と背比べしろ。本当に私より大きかったなら許してやる」
「こ、琥珀お前がいけよ。お前の方が身長高いんだから」
「え、お、俺ぇ!?」
友人に背中を押されて、琥珀は前に出た。操に威圧されていて蛇に睨まれた蛙状態の琥珀。操と背中合わせになり体を密着させた。結果は、わずかに操の方が身長が高かった。
「ふん。人の身長をバカにした割にはその程度か」
「う……つ、次は負けないからな! このでか女ァ!」
涙目になって強がる琥珀を見て、操は少し彼を可愛いと思ってしまう。完全なる不意打ちだった。でか女と失礼な発言ではあるが、でかいと言われて操は悪い気がしなかったのだ。
信号が青になり自転車で先に進む操。操と琥珀はたまたま今日会っただけである。通学路が一致する部分もあったが、お互いが卒業するまで不思議と再会することはなかった。後に琥珀は大きくなって、操に再開するのであるが、お互いにそのことを覚えていない。この2人はお互いに初対面だと思うずっと前から、縁があったことを運命だけが知っていたのだ。
しばらく進むと操はまた信号に引っかかった。今度は中学生の女子が2人並んで歩いている。
「ねえ見て見て。あの子。小学生なのに高校の制服着てるよ。ギャッハッハ」
大声をあげて笑う失礼星人その2。同日に2連撃を食らうとは操も思わなかった。
「ちょっとマリリンやめなよ。失礼だよ」
友人の方は常識人であった。流石は中学生と言ったところ。失礼発言した方も中学生ではあるが、知能は小学生より酷い。
「あ、そっか。小学生が制服着てるんじゃなくて、小学生並に小さい高校生が制服着てるだけだったか」
操はマリリンと呼ばれた女を思いきり睨みつけた。しかし、マリリンは気にする様子は見せない。男子小学生の方はまだ可愛げを感じた操だったが、この女子中学生に対しては一切の仏心を見せまい。そう思う操だった。
この2人も後に運命的な出会いを果たすのではあるが……操のあの時の決意は守られることになる。真鈴に対して厳しく接する操の構図は、永遠に崩れることはないのだから。
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