CLOSED PANDEMIC編 第5話 いなくていい時にいる奴。言わなくていいことを言う奴

 資料を棚に片付けた主人公は(やはり思った通りだ……あの少女は――)と思考した。


「あ、本当だ。賀藤君の言う通り、感染者だと気づいていたみたいだね」


「ああ。その真意を語ってくれるかな?」


 琥珀の期待も虚しく、それはまだ明かさず(とりあえずあの少女を保護しに行こう)と一部分の思考しか開示されなかった。ただ、次の目的地がわかっただけで琥珀は良しとした。ゲームを進めればわかる可能性があるのならば、進めるしかない。その道筋を示してくれるのは、初見ゲーマーとしてはありがたいことだ。


 そのまま、さっきの病室に戻ってきた主人公。しかし、病室には少女はいなくて、主人公は急に焦りだした。「おい! さっきの女の子! どこだ!」とひたすら、彼女を呼び続けるがこの病室にはいない。良く見るとカーテンが風で揺られている。主人公がカーテンに近づき、それを開けると窓が開いていて、サッシの部分に縄ばしこがかけられていた。


 主人公は怪訝な顔をして、「最初に病室に来た時にはこんなものなかったぞ」と言った。そして心の中で(少女は、この梯子で病院を出たかもしれない。追わなくてはならない)と思った。そして表示される【※この縄ばしごを降りるとしばらく病院には戻って来れません】というシステムメッセージ。大きなイベントが始まる前兆である。


「賀藤君、病院内にやりのこしたことはある?」


「わからない。けれど、大方調べつくしたし、重大アイテムを取り忘れて詰むってことはなさそう」


 制作者側が親切心のためにいれたメッセージでも、ユーザー側からしてみれば不安を煽るメッセージにもなりえる。親切とは中々に上手く嚙み合わないものであるという好例。


「とりあえず、行ってみてダメだったらまたセーブしたところからやり直せばいいか」


 琥珀は決意を固めて、縄ばしごから病院を脱出することを決意した。主人公はあっさりと縄ばしごを降りた。病院で2階に上がる時みたいにクマの化け物に襲われることもなく、本当に平和だった。


 主人公が道なりに歩いていくムービーが流れると前方から感染者がやってきた。普段は戦闘でバッタバッタと倒していく主人公だが、なぜか逃げ出そうとする。そして、逃げ出した先にも感染者がいて、はさみうちの形になった。主人公がどうしたものかと困っていたその時。ハゲ頭のドアップが映った。ハゲ頭はキラリと光るというギャグ演出。ホラーゲームの雰囲気をぶち壊しかねないそれの後にカメラが引いて、ハゲ頭で銃を持った青年が現れた。青年は銃で感染者たちの足を次々に撃っていく。


 ハゲの顔を見た主人公は安心した表情で「ニコラス!」と名前を呼んだ。ニコラスと呼ばれた青年は、銃をリロードして、主人公の背後にいた感染者たちを次々に撃っていく。


「ええ……ハゲに助けられるの?」


 夏帆が嫌そうな顔をする。女子としては、どうせ助けられるならフサフサのイケメンが良かったと思っている所だ。よく、日本人にハゲは似合わない。外国人のハゲは格好いいとか言う謎の勢力はいるが……人種や顔の造形はどうあれハゲはハゲだ。


 今までバールで戦ってきた環境で、いきなり近代的な銃を使うのは反則を通り越している。だが、当事者からしたら助けてくれるならなんでも良いのである。「アンバー! 無事か!」とニコラスは拳銃を主人公に投げ渡した。


 拳銃を受け取った主人公は、拳銃を一通り確かめた後にニコラスの方を向く。「合流が早かったな。まあ、こちらとしては助かったけれど」と主人公。それに対してニコラスは「ああ。車に搭載してあった無線信号が急に途絶えたからな。なにかあったんじゃないかと思って至急来たのさ」と返す。


 最初に感染者に車をボコボコに殴られていた時に信号系統がやられていたのだ。万一の時のための機能が正に役立ったのだ。


 主人公は「躊躇ちゅうちょなく感染者を撃ったのは、ニコラスもこいつらが例のアレに感染していることに気づいたってことか?」と尋ねる。ニコラスは「ああ。嫌な予感がしたから、車はトンネル前に停めた。お前のボコボコにされた車を見たら、それが正解だと思ったさ」と笑い飛ばした。一方で車を破壊された主人公は嫌そうな顔をする。


 ニコラスは腕を上げて「で、どうする? 緊急事態だからこのまま帰るか?」と提案する。しかし、主人公は「いや、ウイルスの変異株に感染した者を見つけた。そいつを持ち帰らなきゃ、ボスに顔向けができない。見つけたけど見逃しましたなんて報告書に書いたら、それこそ俺が見逃されない・・・・・・だろうな」と返した。ニコラスは渋い顔をして「俺が……じゃなくて、俺たちだろ」と返してため息をついた。「じゃあ、さっさと見つけ出して連れて帰るか」と主人公が提案しニコラスが頷いた。


 主人公たちの会話から、彼らの目的の一端が見えたところで画面が暗転した。これから、真実が見えてきそうという所で表示される文字。CHAPTER2 CLEAR。


「チャプター2が終わったか……あ、もう遅い時間だなあ。政井さんは帰らなくて大丈夫?」


「ううん。そろそろ帰らないと親に怒られるかも」


「じゃあ、チャプター3はまたの機会にしよう」


 琥珀は夏帆を玄関まで送ろうとした。そこで、本来この家にいるはずのない人物である“奴”とすれ違った。


「あれ? 琥珀。その子誰?」


「ヒッ!」


 夏帆の顔が思わず引きつる。まさか会えると思っていなかった推しに会えると思わなかったのだ。


「ああ、友達だよ姉さん」


「だよね。琥珀が彼女連れてくるわけないもんね」


 姉の失礼な発言に内心イラつく琥珀。その一方で、夏帆は固まっている。


「じゃあ、私そろそろ自分の家に帰るから」


「何しに来たんだよ」


「今月家計がピンチだから食料漁りにきた」


 姉の最低すぎる平常運転に琥珀は特にツッコむことはなく、見送った。そして、夏帆がワレに帰った時、推しのマリリンに会話どころか挨拶ができてないことに気づく。そのまま、家に帰った夏帆はその事実に1人枕を濡らすのであった。



 今回のこのサブタイトルを見てこれからの展開を察した者もいるだろう。予測可能でも回避は不可能。歪な形でも歯車は噛み合う。


「ねえ。リゼ。聞いて聞いて。この前さ、琥珀が友達を家に連れてきたんだ」


「ふーん。そうか」


 年頃の高校生なら同性の友達を家にあげるのは珍しいことではない……と操はこの時思っていた。だが、二の矢を受けた時にショックを受けることになる。


「それが、結構美人な子だったんだよ」


「ん?」


 真鈴のそのセリフを聞いた時に、操は何かがおかしいと感じた。男性に対して美人な子……? その疑問は、友達の性別に言及してないことに気づいてしまう。


「女の子と2人きりで部屋で何してたんだろうね。私、男の子を家に呼んだことないからわかんない。リゼはどう思う?」


「ど、どうって、タダの友達だろ! 普通に遊んでただけだろ!」


「ん? そうだよ? だって、琥珀は友達って言ってたし? ん? あ、確かに今はまだ友達でも、その内彼女になるパターンもあるよね!」


 言わなくていいことを更に重ねる女。


「トモダチ……トモダチ……」


 無垢な少年と仲良くなった異形の怪物が如く、友達と何度も呟く操。その日から、しばらく琥珀と操のメッセージのやりとりが鈍化したことは言うまでもない。師匠のレスポンスが悪くなって、困惑する琥珀。「本当にお前ら姉弟は、そういうとこやぞ!」失礼しました。誰かの心の声の一部が届いてしまいました。お詫びに次の章では、人気投票1位に輝いたキャラのエピソードをやって師匠を救済します。CLOSED PANDEMIC編の続き(チャプター3)はその後!

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