CLOSED PANDEMIC編 第3話 子供たちが好きなメロンと熊を合体させたマスコットキャラクターはさぞ人気なんだろうなあ(´・ω・`)
プレイヤーは病室を抜けて、次の探索場所に移動する。夏帆は相変わらずビクビクしている。そんな夏帆を気遣う素振りすら見せない琥珀。モテないのはそういうとこやぞ。
そうこうしている間にリネン室の扉の前に来た。当然、さっき拾った鍵を使えば中に入れる。琥珀はリネン室の鍵をさっさと使おうとするが、夏帆はまだ心の準備ができていない。
「ねえ、賀藤君。この扉の鍵を本当に開けるの?」
「ん? ああ、そのつもりだけど」
「開けたら、お化けが出てこない?」
「いきなり、ワッ! って出てくるかもな。ホラゲなんだし」
「ひぃ」
ぶるぶると震える夏帆。
「じゃあ、わかった。3、2、1で開けるから」
「うん……」
「3、2」
ガチャ。数字を言い終わる前に開ける。
「うわぁん! 3、2、1で開けるって言ったじゃん! 2で開けないでよ!」
扉を開けたところで特に何も起きなかった。扉を開ける度に毎回なにかしらのギミックを仕組んでいてはクリエイターは過労死してしまう。故に何もないときな何もないのだ。
「ほら、何も起こらないじゃないか。政井さんはびくびくしすぎなんだよ」
「やめてよもう……」
普段のクールな感じが完全に消えた夏帆。琥珀の手にかかれば、クールな女性もポンコツになってしまうのだ。
リネン室を一通り調べる琥珀。【針金】を入手した。普通は落ちている針金を拾うことはしないが、ホラーゲームの主人公はやたらと拾いたがる習性があるのだ。
何事もなかったリネン室から出た琥珀。すると、ここでイベントムービーが始まった。
ドスンドスンと揺れる院内。主人公は「地震か?」と言い周囲を見回す。次の瞬間、チャプター1の最後に出てきた熊の怪物が床をぶち抜いて出てきたのだ。
「きゃあ!」
琥珀にしがみつきそうでしがみつかない夏帆。しがみついたら怒られるから、ギリギリのところで踏ん張った。
ムービーが終了し、操作画面に映る。そして、システムメッセージが表示される。【この怪物にはどう足掻いても勝てない。逃げるしかない。】。確かに人間が熊に勝てる道理はない。相手が怪物であれば猶更だ。
「随分と親切なメッセージだなあ」
怖がる夏帆の一方で琥珀はゲームの作りを見て、感心していた。勝てない敵であることを事前に教えてくれるのは親切である。このまま殴りにかかって、返り討ちにあってゲームオーバーになることを防ぐための措置。
「早く。逃げなきゃ」
「落ち着けって。メッセージを送らなければ時間は止まったままだから」
琥珀は落ち付いて、決定ボタンを押してメッセージを送った。次の瞬間、物凄い速さで熊の化け物が走ってきた。プレイヤーも走る。しかし、熊の化け物に比べたら遅い。このままでは追いつかれてしまう。
「賀藤君! 追いつかれちゃうよ」
「大丈夫だって。ゲームっていうのは必ずクリアできるようになっている。なんらかの方法でこのピンチを抜け出せるはず」
熊の化け物がプレイヤーの眼前に迫る。次の瞬間、熊の化け物が一瞬止まった。そして足に踏ん張りを入れる。その挙動を見て、琥珀は察したのか横に移動した。
琥珀の判断は正しかった。熊は前方に大きく飛びかかった。もし、横に逸れなかったら、確実に飛びかかりの餌食になっていた。攻撃を誘い隙を作り出して逃げる。それが、この鬼ごっこのコンセプトなのだ。
飛びかかり状態の熊は隙だらけだ。画面に向けられているケツ。それを見た琥珀はバールを装備して熊のケツに思いきりフルスイングをした。
「なにしてんの?」
「いや、勝てるかと思って」
しかし、システムメッセージにもあったように人間は熊に勝てない。ノーダメージの熊がプレイヤーをハムハムして、ゲームオーバー画面に移行してしまった。
「食べられちゃったじゃないの!」
「あはは。気にしない気にしない。どうせゲームだから。失敗したところでゲームオーバーになるだけだから」
身もフタもないことを言う琥珀。事実、ホラーゲームは、トライアンドエラーで死んで覚えて次に進むことが多い。初見では、死亡回避不可能だろって罠もそこら中に張り巡らされていることもあるのだ。
ゲームオーバー後のリトライで、熊に襲われるところからスタートした。再び逃げる主人公。襲い掛かる熊。攻撃を躱す主人公。でも進行方向に陣取っている熊。
「うーん。これは引き返した方がいいのか?」
琥珀は引き返したが、目の前には熊が出てきた大穴がある。行き止まり。絶体絶命のピンチである。
「きゃー。また食べられちゃうよ」
また攻撃の姿勢に入る熊。とりあえず回避行動を取る琥珀。変わらずダイブをする熊であったが、目の前には大きな穴。熊はまたその穴に落ちてしまい、ガッシャーンという大きな声が聞こえた。
「助かったのかな?」
琥珀はプレイヤーをぐりぐりと動かして身の安全を確認した。一方で夏帆の心臓はバクバクいっている。
「はあはあ……もう心臓に悪いよ」
琥珀は穴を調べてみた。【穴を覗いてみると吸い込まれそうな深淵が広がっている。落ちたら2度と這い上がってこれそうもない。】というメッセージが表示された。
「熊のせいでまた道が塞がれたなあ。この穴を飛び越えることも不可能っぽいし……先に進むしかないか」
「うん。そうだね……」
琥珀は再び主人公を操作して先へと進む。しばらく進んでいくと子供のすすり泣く声が聞こえてきた。
「ひぃ……な、なにこの声」
子供の泣き声や笑い声。日常生活においては聞こえたところで、恐怖心を煽らないものではある。が、ホラー的な状況で聞こえてくると、一気に不気味な演出に変わってしまう。
「うーむ。妙だな。閉鎖された村に子供がいるのか?」
「や、やだよお。これ絶対、お化けか幽霊だよ」
「それは観測してみないとわからないことかな。お化けにしろ幽霊にしろ、その他諸々だとしても、正体を突き止めなきゃ」
ここに来ても琥珀の好奇心旺盛な性格が牙を剥く。一歩一歩先へ進むごとに声が大きくなる。その声はとある病室から聞こえてきて、その病室には鍵がかかっていた。
「うーん。正体がわかるかと思ったのに、残念だな」
「ほっ」
鍵がかかっていたことにストレスを覚える琥珀と安堵する夏帆。だが、数分の探索の後に、あっさりと病室の鍵は見つかった。喜ぶ琥珀と顔が引きつる夏帆。2人の気持ちはバラバラのまま。
「じゃあ、開けるぞ」
「うん」
さっきのようなフェイントを食らっては敵わないと、夏帆はあっさりと承知した。そして、扉を開けるとそこには白髪の少女が病室の隅っこで1人で泣いていた。嗚咽混じりに「ママァ……ママァ……」と連呼している。
少女に近づく主人公。少女は主人公の存在に気づくと「ひっ」と声をあげて、近くにあったシーツを剥ぎ取り、それを被ってガタガタと震えはじめた。
「そっちが怖がるの……?」
夏帆は訝しんだ。
少女は変わらず怯えていて「ママァ……助けて」と連呼するだけであった。少女に何回話しかけてもそれは変わらない。琥珀は進行フラグが立っていないと判断して、病室から出ようとする。その時だった。「待って!」と少女が主人公に声をかけてきた。
「あなたはこの村の者じゃないよね?」と少女が尋ねる。主人公は「ああ、そうだ」と返答すると少女はシーツから出てきて主人公に歩み寄ってきた。少女の外見は、普通の子供と言った感じだが、顔色が少し悪くて病的に細い。見た目的には病弱に映る。
「ママは……? ハンナ・ベイカーがどこにいるのか知らない? この村に住むお医者さんなの」少女がそう尋ねると主人公は黙って首を振った。ハンナ・ベイカーは既に逝去している。主人公の心境としては、その事実を少女に伝えたくなかったのだ。
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