CLOSED PANDEMIC編 第2話 こいつら何食って生きてんだよ

チャプター1のまとめ


主人公がかつて伝染病が蔓延した村の調査にでかける

伝染病にかかってるゾンビを発見し爆発する

手記を発見して、伝染病に感染した者は若返ることが発覚する

伝染病を研究していたベイカー医師の本名は『ハンナ・ベイカー』

廃病院の2階に行く途中で熊型のモンスターに襲われる

なんとか熊を退けるも1階に行く手段を失う

チャプター1終了

しょうがないから2階を探索する←今ココ


――


 ゲームが再開されて、イベントからのスタートとなった。ショコラ改め、アンバーとなった主人公は周囲を見回している。「ひどい臭いだな……」と呟く主人公。廃病院の2階は病棟になっていて、ずらっと病室が並んでいる。チャプター2は病室の探索がメインなのだろうか。


 しばらく待っているとプレイヤーキャラが操作可能になった。琥珀は、コントローラーをぐりぐりと動かして操作を始める。


「政井さん。動かしてみる?」


「え、わ、私はいいよ。賀藤君のゲームなんだから、賀藤君がプレイして」


 夏帆はいきなり琥珀に振られて驚いてしまった。自分でホラーゲームをプレイできない極度のビビりの夏帆は、琥珀の優しさからくる好意を受け取ることができなかった。


「うーん。俺はいつでもプレイできるからなあ。政井さんはこういう機会でもないとプレイできないかと思ったけど……まあいいか。操作したくなったらいつでも言って。交代するから」


 人に気を遣うのが苦手な琥珀でも、こういうところには不思議と気が回る。仮にも1人の妹を持つ兄であるため、その影響からかゲームの順番を譲ることには抵抗がないのだ。


 ずかずかと進む琥珀。病室の扉を開けて躊躇なく探索する。間近でゲーム画面を見ている夏帆は、その動きの速さに戸惑いを覚える。夏帆は人気のゲーム実況者の配信ばかりを見ていた。実況者は実況するのに脳のリソースを割いているため、初見だとゲームの進め方がどうしても鈍ってしまう。慣れたゲームだと操作パターンはある程度固定化されているため、喋りながらでも鈍化はしない者も中にはいるが、ホラーゲームは初見プレイが多いから実況のスタイルだと遅くなりがちである。


 琥珀もショコラで配信している時は、リスナーや喋る内容にも気を回しているため、普段のプレイより遅い。だが、今は実況に気を回していない分ゲームに集中しているので、配信よりもテンポが速い。ホラーゲームの実況のテンポに慣れている夏帆にとっては、通常プレイのテンポはどうしても速く感じる。そのせいで、心の準備が整いにくく、心臓に悪い映像になってしまっている。


 琥珀は、病室で患者の日記を見つけた。それを調べると日記を読み始める。


――

5月10日

この病院に転院してきて今日で3日になる。

都会での喧騒が嘘のように田舎は静かである。ここは俺と同じ病気を持つ患者が多い。空気がキレイだから病気の療養には役立つ。尤もらしい理屈だ。偽善者の言葉にしか聞こえない。


5月11日

入院生活は暇でしょうがない。だけど、ここには仲間がいるからまだマシだ。

ベイカー医師に病気のことを教えてもらった。俺の病気は感染する危険性がない病気だそうだ。だから、本来なら俺はここに来る必要がない人間だと初めて知った。


5月12日

ベイカー医師の祖母は随分と体が小さいようだ。肌はしわくちゃの老人なのに、身長はまるで子供。振る舞いも幼いし、歳を重ねているようには見えない。肌のしわを除けば。


――


「なるほど。このゲームの世界観もわかってきたな」


 なぜ、トンネルを塞がれただけで隔離されるような村に、大きな病院があるのか。その理由に琥珀は気づいたのだ。持前の高い洞察力と推理力。なぜか恋愛に対しては発揮されないが、それ以外では中々に有能である。


「どういうことなの?」


「この病院は正に隔離施設として建てられたんだと思う。建てられたのが戦時中だって話だし、その頃には病気に対する一般人の理解もないからね。感染しないような病気でも、あいつに近づくと感染するなんて偏見を持たれてしまう。だから人の出入りが少ない人口密度が低い田舎に大きな病院を建てて、病人をそこに押し込めたんだと思う」


 琥珀が配信の時に思っていた疑問。なぜ、田舎に病床数が多い病院があるのか。それが解消された瞬間であった。


 センシティブな話題故に、具体的な病名は伏せられてはいるものの、現実でも似たような事例はいくつもある。患者に対する差別があった歴史を風化させないように活動する者もいる。


「なんか嫌な話だよね……病気の人を僻地に押し付けようとするなんて」


 夏帆が暗い顔をする。夏帆は社会の闇に触れるのは好きではない性格なのだ。だからこそ、闇を感じられない真鈴に惹かれている面もある。


「現代日本だと人権の問題にも関わってくるだろうね。必要性もないのに、遠くの病院に強制転院させて、隔離するだなんて」


 一方で、琥珀は学者の父譲りで知識欲がそれなりにある。それ故に、世の中の深淵に触れても、あんまり動じない性格なのだ。


「さて、気を取り直して探索しよう」


 この部屋に重要アイテムはないと判断した琥珀は、次の病室を目指した。探索とはなにも次に進むためのフラグを立てるだけではないのだ。謎の解明に必要な情報収集や世界観を知るためのフレイバーテキストの発見。それに触れるのも探索の醍醐味である。


 次の病室に入った途端、甲高い鳴き声と共に画面をサッと黒いものが横切った。


「きゃ!」


 夏帆は思わず悲鳴をあげてしまう。ホラゲ特有の驚かしの演出だ。無意識の内に琥珀の袖を小さく掴む。


「あ、ごめん賀藤君」


 夏帆は慌てて琥珀の体から離れた。彼女でもない自分が、琥珀に抱き着いても迷惑だろうと思っての咄嗟とっさの行動。


「操作ミスするかもしれないから、操作中はあんまりちょっかい出さないで欲しい」


「……ごめん」


 普通の男子高校生なら、喜ぶか喜んで許すかの2択になる状況。怖がってる女子が自分の体に密着するという状況。それに第3の選択肢、2度とやるなを選ぶ胆力。相手に脈無しだと思わせる才能は他の追随を許さない。正にモテない理由の塊のような主人公である。


 画面を横切った黒いものの正体はアッサリとわかった。部屋の隅に、なにかの肉片をかじっているネズミがいた。ネズミはプレイヤーと目が合うと肉片を抱えたまま、再び甲高い声をあげてどこかへと走り去っていった。


「び、びっくりした」


 夏帆が息を整えている一方で、ネズミが先程までいた場所に光っているものが落ちている。琥珀はプレイヤーを操作してその鍵を調べた。【リネン室の鍵を手に入れた。】というメッセージと共にアイテム欄に鍵が追加された。


 ガタッと大きな物音がする。ビビリの夏帆は「ひっ」と声をあげて画面から目を逸らす。


 病室に“感染者”が5人ほど入ってきた。最後に入ってきた感染者は律儀に病室の扉を閉めて道を塞いだ。


「や、やだあ……なんでゾンビが出て来てるの。早く銃火器をぶっ放してやっつけてよ」


「無理言わないでくれ。こっちが持っている武器はバールのようなものしかない」


 プレイヤーはバールを装備して、近くの感染者に殴りかかる。風切り音と共に感染者に攻撃が命中。攻撃を受けた感染者は少しノックバックする。ダメージを受けた際に硬直時間があり、その隙に琥珀はもう追撃を入れる。2発目には耐えられなかったのか感染者は崩れ去ってしまう。


「よし。このまま全員ぶちのめすぞ」


 同じ要領で感染者を倒していく琥珀。あっと言う間に感染者を全滅させて、身の安全を確保した。


「はあはあ……怖かった」


「ねえ、政井さん。ちょっと疑問があるんだけど話していいかな?」


「ん? いいよ」


「さっき、この伝染病ってネズミにもかかるのかな? さっきネズミがいたけど、特にゾンビっぽい挙動してなかったし」


「うーん。わからないな」


「それにネズミは何らかの肉片を齧っていた。ネズミの食生活はわかったけど、感染者たちは何を食べて生きてるんだろうね」


「知らないよそんなこと! そもそもネズミって肉食べるの?」


「基本は草食動物だけど、雑食の個体もいるよ」


「へーそうなんだ」


 興味なさそうに流す夏帆。琥珀は謎の解明や考察をしたがる性格ではあるが、夏帆はそうではなかった。世の中の人間、全て知的好奇心に溢れていると思ったら大間違いなのである。ちなみに琥珀の師匠である操も、琥珀と同じタイプでわからないことは解明したいと思う性格ではあるが、この場では特に関係はない。

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