第3話 パーナムはパパ

 高速エレベーターに乗っているのは、先ほど戦闘していた全身装甲の人影である。目的の階に辿り着くと、真っ直ぐに正面の扉に向かっていき、扉の横のセンサーに自分の手首のコードパネルをかざす。ススッと開く扉の向こうには、先ほどのメガネの男がいた。

「ラスカにゃん!お疲れにゃん!」

 そう言いながら抱き着こうとしてくる男を全身装甲は天井にぶん投げた。男は「うごぉ」と言葉を残して天井に突き刺さる羽目となった。全身装甲が、東部の装甲を解除し、その顔面があらわになる。

「いったい何度言えば分かるのパーナム、私はラスカ・ハイ。ラスカにゃんなんて名称ではないわ」

 人間の歳で例えるならば、10代のような幼さを湛えながらもずっと大人びているような冷静な表情がそこにはあった。戦闘で少し乱れたショートヘアーを手で直しながら、無表情のまま天井にぶら下がる男を見ている。

「だから、俺のことはパパと呼びなさいと何度も言ってるだろ。そしてパパの足をもう一度地面に着かせてくれないか、ラスカさん・・・」


 ラスカの装甲を念入りにチェックするパーナム。彼の正式名称はパーナム・パンツァーという。ラスカが最初に起動した時から、自分のことをパパと呼ばせようと画策しているが虚しい結果となっている。

「いい加減私のことを娘扱いするのはやめて、パーナム」

「しかしだラスカ、俺はお前の生みの親であり、そして現存する数少ない介人型のロボットなんだから、もっと仲良くしてもいいと思うんだがな」

「嫌よ、私は仲良くしたくない」

「強烈ゥー!なお、効いてないけどね」

 無駄口を叩きながらも、テキパキと破損した個所を修理するパーナム。ラスカがふと目を閉じた。頭部の髪が一瞬風に揺れたかの如く膨らんだ。

「・・・大変よパーナム、恐らくゼラニウムの支部隊レベルの勢力がこっちに向かってる」

「ああそうだ、だから急いでる。やつらどうあっても介人型を全滅させるつもりなんだな」

「昨日の戦闘で、私たちの戦力はほぼ壊滅したわ」

「ああそうだ、だけど諦めるわけにはいかない」

「でも今確認できるだけでもWalkが5万体ほどいると思うわ」

 パーナムが作業を終わらせて、一息つく。そしてすっくとラスカの前に立った。真っ直ぐ見つめ合う二人。

「だからパパを信じるんだ」

「嫌よ」

「困ったときはこう叫ぶんだ、」

 刹那、警報アラートが施設内に鳴り響く。地上で敵からの砲撃を受けたサインである。しかし、そんなことお構いなしに、しかめた顔をパーナムに向けるラスカであった。

「この緊急事態に何を言ってるの。それが最後の言葉になったらどうしてくれるのよ」

「俺とラスカにゃんなら最後にはならないさ」

「いよいよ回路パーツが故障したみたいね、あなた自身を修理でもしていればいいわ」

 そう言い残して、踵を返し歩き出すラスカ。

「その間に敵は全て私が消し去っておくから」

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