第11話 後日、デリバリーしました。
「どうします、陛下。勇者と名乗る者は完全に我らと事を構えるつもりですぞ……!!」
「うぅむ……」
キコリーフの木をふんだんに使った木造建築、その技術を極限まで使用したキコリーフ城の一室にて。
この国の最高権力者は、木目の美しいアンティークの玉座にゆっくりと背を預けながら、どうしたものかと
「現在、勇者は解放軍と名乗っております。拠点の場所はハラハラ大砂漠の北、元は獣人族である
「
王はかつてそこに存在したサソリの獣人、鋏鱗族について思いを巡らせている様子だった。
「滅ぼされたのに今は勇者と共に居るってことは、生き残りが居たってことですか?」
「うむ。彼らは元々過酷な環境でも生き残ることに特化した種族でな。個体数そのものは少ないが、砂に隠れたまま数ヵ月やり過ごすこともできる、とてもタフな種族なのだ」
「ふぅん、なるほど。ってことはその砂漠地帯のおかげで魔王の目を掻い潜り、どうにか生き延びていたってことなのかなぁ」
でもどうして、その鋏鱗族が敵前逃亡した勇者と一緒に居るんだろうね?
「あの、陛下……つかぬことをお聞きしますが、この者はいったい……?」
「……
「いえ、私はこんな黒髪の男なぞ知りませぬぞ……??」
木工細工の王冠を頭に乗せたご老人と、頭の毛がすっかり寂しくなったデブのおっちゃんが、二人して僕の方を見つめている。
うん、だってはじめましてだもんね。
逆に僕のことを知っていたら凄いと思うけど。
「お初にお目にかかります。僕の名は「彼はサウスレイクからやって来た、冒険者のネクト殿でござる。かの魔王大戦では『ノーバディ』というパーティで剣聖らと旅をし、見事に魔王を討伐した英雄の一人ござるな」そうそう、僕がその英雄のネクトです。……って誰!?」
せっかく突然現れてカッコよく名乗りを上げようと思ったのに、邪魔しないでよ!!
そう文句を言いたくなったけれど、肝心の邪魔者の姿が部屋のどこにも見えない。
声の感じからすると、たぶん女性なんだけど……部屋の壁から聞こえたぞ?
っていうか、ござるってどこの言葉!?
しかも驚くべきことに、その女性は僕の名前と経歴を
「この国でも冒険者として活動し、冒険者ギルドの受付嬢の家に
「……ふむ、そうなのか。まさかこの頼りなさそうな男が、かの有名な『黒の英雄』だったとは」
「でかしたぞ、ラクヨウよ。さすがは我が国の隠密衆きってのエースだ」
え、ちょっと待ってよ!?
壁の向こうに居るござる口調の人って、この国のスパイなの!?
僕の動向が、ネールさんのことも含めて全部バレているじゃないか。
頼りなさそうは余計だけど……『黒の英雄』ってかっこいいな!
そんな二つ名は初めて聞いたけど、今度からそう名乗ろうっと。
「ちなみに今日の朝食は、美人受付嬢のお手製ハムエッグトーストだったでござる」
「なぬ!? 美人受付嬢の愛情が篭もった、お手製ハムエッグトーストとな!?」
「なんとも羨ましいですな、陛下!!」
「
いや、うん。朝食のメニューはその通りなんだけどさ。
話題がハムエッグトーストに変わってない!?
あと壁の向こうのお前!! 何を勝手にネールさんのご飯つまみ食いしてるのさ!!
僕が買ってきたハムなんだから、あとで朝飯代払えよな!!
「ともかく、怪しい者ではないのは理解した。して、黒の英雄殿はどうしてここに参られたのだ?」
「え、えっとですね……戦争の様子を聞いてですね……できることなら、それを止めようかと……」
「「「……はぁ? そうなんですか」」」
「はい……」
おいおい、どうするんだよこの気まずい空気!!
折角ビシっと決めようと思っていたのに、朝食の話を挟んだせいで完全におかしな空気になったじゃないか!!
「あの、もう一回トーストの話に戻しません……?」
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