第12話 警戒度を上げておく、でござるか……。


 どうやら勇者と名乗っているのは、サウスレイクが異世界から召喚した勇者で間違いなさそうだ。



「その勇者とやらは解放軍と名乗っているらしくてな。なんでも『鋏鱗きょうりん族の人たちが砂漠に追いやられているのはおかしい! 森がたくさん余っているんだから分け与えろ!!』という主張なのだ」


 宰相のハゲ……もとい、ツルッパさんは心底うんざりした表情でそう教えてくれた。



「えっと、それは本気で言っているんですか? なにか裏の意図があるとかではなく?」

「むしろそっちの方が良かったかもしれん。だがアレは純度百パーセントでそう言っていた」


 うぅん、本物の馬鹿なのかぁ。それはしんどいなぁ。


 鋏鱗族がハラハラ大砂漠に住んでいるのは、別にキコリーフの国がそうさせたわけじゃないと思うんだけど。


 追放されたのだって、どこかの誰かさんみたいに、王女様のおっぱいを触ったとかじゃないんでしょ?



「しかも懇切丁寧こんせつていねいに、この国と鋏鱗族の歴史から説明した挙句の果てに『なら戦争だ!』と言われてな……私もさすがにトサカにきてしまったよ」


 あぁ、ツルッパさんが直々に説明してあげたんだ。


 たしかに自分の理解力不足をさておいて相手に喧嘩腰になるのは腹が立つよね。


 でもツルッパさん、ハゲなんだからクるトサカがなくない?



「それで、キコリーフ側としてはどうするつもりなんです? こんなくだらないことで戦争を……いや、戦争になるのかなコレ……」

「そうなのだ……だが何をどうやったのか、勇者は鋏鱗族を先導しているらしくてな。勇者本人も、得体の知れない強さを持っているとの調査結果がでておる……」


 ツルッパさんは横目でチラリと見ると、隣りにいたラクヨウさんが大仰おおぎょうに頷いた。



 ラクヨウさんが言うなら、間違いはないんだろうなぁ。


 この人は壁の向こう側で僕のプライベートを暴露した実績(?)がある。


 隠密衆と呼ばれるこの国の諜報部隊に所属していて、僕のことも裏でコソコソと調べていたらしい。



「……せつの顔に、何かついているでござるか?」


 ラクヨウさんの顔は身に纏っている黒装束と同じ布で纏っていて、目元しか見えない。


 だけど中身は間違いなく美人だ。僕なら雰囲気だけで分かる。


 身体つきはネールさんやノエルと比べるとスレンダー気味だけど、チラチラと見える生足がセクシーだ。



「いえ、ラクヨウさんが魅力的だったので見惚みとれていました」

「……見惚れて……でござるか」

「おい、黒の英雄殿。我が国の隠密衆エースを口説くどかないでくれ」


 そんな事言われたって……ねぇ?


 素敵な女性が居たら褒めないなんて、そんなの紳士のやることじゃないもん。



「それじゃあラクヨウさんの調査によると、勇者モドキと交渉するのは難しく。このままでは鋏鱗族を含めた、勇者率いる解放軍と戦争ないし、戦闘に発展するということですね」

「そういうことだな。まったく、我々は他にやるべきことがあるというのに困ってしまったよ」


 ――ふむ。こちらから制圧しようにも、敵地は厳しい環境の砂漠。


 鋏鱗族のテリトリーは迂闊うかつには入れない。


 まぁそれも普通の人間ならば、だけど。



「分かりました。それじゃあ僕がちょっと行って勇者を説得してきます」

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