第9話 昨晩はお楽しみでした。
新しい朝が来た。
すがすがしい、希望の朝だ。
「ん……ネクトさん……」
「むにゃ。ばかネクトぉ……」
いや、欲望の朝だったかもしれない。
ベッドで寝ている僕の両サイドには、一糸まとわぬ姿の美女が二人。
「ほらぁ……ネクトさんの情けない顔、私にいっぱい見せてください……」
僕の右耳にそんなSっ気のある寝言を
金髪で綺麗なアイスブルーの瞳をしたナイスバディな美女。
元銀ランクの冒険者で、今はキコリーフ国の冒険者ギルドで受付嬢をやっている才女だ。
駄目な男が好きという変わった性癖を持っているけれど、基本的に優しい。好き。
チラ、と左の美女を見る。
「ネクトぉ、お願い……もっとノエルのこと虐めて……」
人の左手を抱きしめて変な所を触らせてこようとしている方が、ノエルだ。
僕の幼馴染で、サウスレイク国では深炎の魔女と呼ばれている。
情熱的な深紅の髪で、鋭い茶色の双眸はあらゆる敵を逃さない。
普段は勝気な性格で僕に悪口ばっかり言っていたんだけど……どうやら愛情の裏返しだったみたい。
昨晩、僕はノエルと初めて結ばれた。
その時も甘えっぱなしで、受け身になってやられるばっかりだった。
途中からネールさんが参戦してからは、ノエルはもっと乱れ始めて……。
どうやら僕とネールさんの二人に攻められ続けたのがダメだったみたい。
「ネールお姉様……」
今も夢の中でネールになにかされているみたいだし。
あと僕の左手、汚れるから勝手に使わないでほしいなぁ……。
……とまぁ、ノエルとの再会した後の展開はこんな結末だ。
なんだかんだあった僕たちは、結局ネールさんの家で三人暮らしをすることになった。
めでたく銅ランクを手にしたんだし、僕は新しく家を借りようって提案したんだけれど。それはネールさんに猛反対されてしまった。
ノエルもノエルで、自分も一緒に住むんだって駄々を
「だったら、私の家にノエルさんも一緒に全員で住んでください」
「それよ!! そうしなさい、ネクト!!」
ネールさんのそんな
そしてそのまま、僕の意見は一切聞かれることも無く。
この小さな一軒家に、三人で住むことになっちゃったってわけ。
「でもまぁ、こんな生活も悪くはないかな……?」
念願のマイホームは手にしてはいないけれど。
銅ランクの冒険者になったことだし、ギルドの正規の仕事をとれるようにもなった。
美女と仲良しになりたいって夢も……綺麗なネールさんは言わずもかな。
ノエルも怖い所はたくさんあるけれど、なんだかんだ言って可愛い。
ネールさんは犬っぽいとするならば、ノエルは猫だ。
ノエルは相当な気まぐれ猫なんだけど、顔は良いし、僕以外には猫を被っているから相当モテる。
だからどうして彼氏ができないのかなー、なんて思っていたんだけど。
「まさか、ずっと僕のことが好きだったなんてなぁ」
僕が陽キャになりたくてクリスタと魔王討伐の旅に出かけた時も、ノエルは僕たちについていくって頑なだった。
まさかその理由が、僕を危ない目に遭わせたくなかったからだなんて……。
二人とも僕を放っておけないって言うし、意外にも僕は愛されキャラだったみたいだ。
「ふふ。美女二人に囲まれる生活かぁ。最高じゃないか……ん? なんだよもう、良いところで」
こうして僕は幸せに暮らしました、ってタイミングで外が何やら騒がしくなった。
僕は二人を起こさないようにしながら、ベッドからのそのそと出る。
自分の裸は見られないように、こっそり窓の外を覘こうとしたところで、バン!と家の扉が開け放たれた。
「た、大変だ姉さん……って、どうしてネクトがここに!? しかもお前、真っ裸じゃねぇか!! 姉さんの家でいったい何してんだ!」
扉をノックもせずに開けたのは、いつぞやのモヒカンヘッド男。モネギカだった。
「なんだよ、モネギカ……いや、弟よ。そんなに慌ててどうした?」
「誰が弟だ!! ってなぜ姉さんまで裸でベッドに!? しかも他の女まで……き、貴様ァ!!」
あぁ、なんだよもう。うるさいなぁ、朝から。
裸、はだかってうるさいから、キコリーフの葉であそこだけ隠しておこう。
あ、そうそう。ちなみにこのモネギカ。実はネールさんの弟だったみたい。
僕もちょっと前にネールさんに教えてもらっていたんだけど、まさか僕を叩きのめした男がネールさんの血の繋がった家族だとは思わなかったよ。
あの一方的なリンチ事件以来、僕はこのモネギカには近寄らないようにしていたし。ネールさんもネールさんで、弟に彼氏を紹介していなかったみたいだ。
「なんですか、朝から大声なんて出して……あら、モネギカじゃないの。どうしたの、こんな朝早く……」
あぁーあ。モネギカが大声なんて出すから、寝ていたネールさんが起きちゃったじゃないか。
「姉さん、どうしてこんな男と……」
「あら、私がネクトさんと交際したらいけなかったかしら? 彼、こう見えてすっごいのよ?」
おっと、ネールさん? それは戦闘の強さの話ですよね?
「な、なななにがだよ!」
「なにって……なにかしらねぇ? ふふふ。お姉ちゃん、毎回びっくりさせられちゃってるのよ」
彼女は僕の腕に抱き着く。瞳を眠気でトロンとさせながら、妖艶で甘ったるいセリフを吐いた。
あの、もし夜のお話をしているなら、弟さんにはちょっと刺激が強すぎるのでは?
「そんな……俺の姉さんがあんな奴に寝取られちまった……」
「元々貴方のモノじゃないでしょう? それより、どうしたのよ。用件があるなら早く言って欲しいんだけど」
ネールさんは弟の前だというのに、真っ裸のまま家の中をうろついている。
人目もはばからず、テーブルの上にあったミネラルウオーターをグビグビと飲み始めた。
モネギカは姉のセクシーな喉元に、思わず目が釘付けになる。だけどすぐに僕の視線に気付いて、誤魔化すように咳ばらいをした。
「ご、ゴホン。そうだった。えっと、なんだっけ……ってそうだよ!! 大変なんだ!!」
「だから、何が大変なんだ?」
まったく、朝から騒々しい奴め。
せっかくの朝を邪魔した罪は大きいんだからな?
「むにゅ……?」
……まぁ、ノエルは相変わらず寝たままだけれど。
これで奴の話が大したことがなかったら、さすがの僕でもキレてやる。
「勇者を名乗る人間が、この国を攻めてきた!!」
「え……」
――ゆうしゃが攻めてきただって?
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