第6話 ギルドの建物に戻る時、めっちゃ気まずかった。


「へっ、これにりたら二度とネーさんを困らせんじゃねぇぞ!!」


 モヒカンヘッドの男はつばをペッと吐き捨てると、勝ち誇った顔でギルドへと戻っていった。



「うぅ……ちくしょう。アイツ、本気で殴ってきやがった……」


 かたや僕はギルド前の広場で、無様にも横たわっていた。


 通行人たちは無残にやられて地面に転がる姿をチラチラと見るだけ。大丈夫?のひと言もかけずに、さっさと通り過ぎていく。



 くそう、どいつもこいつも冷たい人間ばっかりだ!!


 この国の人たちには、弱い者を助けようっていう気概が無いんですか!!



 ちなみにモヒカンヘッドの吐いた唾は、僕のボコボコに腫れている顔にベットリと掛かっている。


 ちくしょう、臭いし汚い。女の子ならご褒美なのに……。



「うぅ、もう故郷に帰りたい……ん?」


 痛みで動くこともできず、そのままシクシクと泣いていると、目の前に緑色の葉っぱが差し出された。


 視線だけを上に向けると、そこに居たのは――



「……なんですか、ネーさん」


 僕がこんな目に遭った元凶の受付嬢、ネールさんがしゃがんで僕を見つめていた。


 受付嬢のユニフォームなのか、ミニスカートの中身が見えそうだ。



「誰が姉さんですか。私はネールです。……どうぞ、使ってください」


 どうやらこれで顔を拭けということらしい。


 キコリーフではハンカチ代わりにも葉っぱを使うんですか?



「……慰めのつもりなら、僕は要らないです」


 どうせ、みじめな負け犬の僕を笑いに来たんだろう。


 想像以上のやられっぷりに可哀想になった?


 そんな見え透いた同情なんて要らないやい。



「違いますよ……ネクトさんが実力を持った方だというのは、私にも分かりました」

「え……?」

「少なくとも、さっきのモネギカより強いのは確かですね」


 どういうこと?


 僕が手も足も出せずに負けたのを、ネールさんも見ていたはずでしょ??



「あくまでも私見ですが……ネクトさんはモネギカの攻撃をように見えました。彼は銅ランクの中では、特に力が強い冒険者です。本当に新人なら、その力に恐れをなすのが当たり前。でも貴方には、


「……良く見てましたね」


「これでも、元冒険者ですので」


 あ、そうだったんだ……。


 でも、たしかにネールさんの言う通り。


 僕は



 もう死ぬと思ったあの戦いに比べたら、あんな痛いだけのパンチにビビるわけがない。


 それに、僕のスキルを使えば


 モヒカンヘッドの力をジャンクションで共有すれば力をシェアできるから。


 ……まぁ同じ力をシェアしただけじゃ勝てないんだけどね。



「負けたら等しく負け犬なんですけどね」

「――うるさいな。それで、そんなことをわざわざ僕に言うために来たんですか」


 ちょっとだけ恨みを込めて、僕はネールさんを睨む。


 だけどネールさんは気にした様子もなく、首を横に振った。



「いいえ。ネクトさんに冒険者証をお渡しに来ました。受付台に忘れていったでしょう?」

「え……もしかして虹ランク「最低ランクです」あ、そこは別に融通してくれるわけじゃないんですね……」



 ネールさんはピカピカに輝く鉄製のプレートを差し出して「初心にかえったつもりで頑張ってくださいね」と言った。


 ……はぁ、仕方ない。


 ここはネールさんの顔を立てて、底辺から頑張ろうか。



 僕は大人しく、そのプレートを受け取った。


 その時のネールさんの表情は、さっきの営業スマイルとはまったく違う、花が咲いたような笑顔だった。

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