第5話 ねぇ、誰か担当を変わってあげなよ……


 キコリーフにある冒険者ギルド。


 美人の受付嬢さんがいる受付台の上で、僕は頬杖をつきながらブスっとふて腐れていた。



「すみません。どんな理由があっても、これは規則ですので……」


 ツヤツヤの金髪をした受付嬢さんはニコニコと微笑みながら、僕の冒険者証をずずいっと突き返す。



 はぁ、これだからお役所仕事は駄目だよね。


 僕はやれやれと溜め息を吐きながら、もう一度説明することにする。



「お姉さん……ネールさんっていうの? 僕もさぁ、サウスレイクでは英雄って言われていたんだよね。ほら、魔王って居たじゃん? アレ倒したのも僕。あ、その顔は疑っているね? いや、分かるよ? 僕はこの国の人間じゃないもんね。だけどさぁ、同じ“ネ”から始まる名前同士でしょ? 仲良くしようよ? ねっ?」


「ネクトさんが魔王を討伐、ですか……」


「うん、だからこの色の冒険者証はおかしいよねって話」


 受付台に置かれた、僕の新しい鉄製の冒険者証を人差し指でトントンと叩く。


 これは一番最低ランクである証だ。だからこんなの、僕のじゃない。


 僕がどれだけ優秀な人間なのか、ネールさんは分かっていないようだ。



 いや、たしかにね?


 僕が元々持っていたサウスレイクの冒険者証は銅だったよ?


 つまりは下から2番目のランク。


 だからネールさんは銅ランクの僕が魔王を討伐したっていうのが、どうしても信じられないんでしょ?



 でも違うんだよなぁ~。


 魔王討伐ってそもそも、冒険者ギルドの依頼じゃなかったからね。


 ギルドの依頼じゃないと、当然ランクアップの条件には当たらない。


 したがって僕がたとえ何体も魔王を倒したところで、冒険者のランクは一切上がらなかったってワケ。


 本来なら、一番上の虹ランクになっていてもおかしくないくらいの偉業なんだけどね~。



 ……まぁスキルなしの僕は弱っちいんだけどね。



「とにかく、僕が最低ランクからスタートするっていうのはおかしいのは分かってくれたかな? 分かったら虹ランク……とは言わないまでも、金ランクぐらいなら僕も妥協してあげるよ」

「そうおっしゃられましても……ネクトさんはこの国の出身ではないので、確認のしようがありません。ですので、一番下のランクからスタートになります」


 ちくしょう! このネールさん、かなり強情だな!?


 どれだけ理屈を捏ねても、彼女は凛とした態度で突っぱねてくる。



 ……にしても綺麗なアイスブルーの瞳だなぁ。


 ガラス玉みたいな眼で僕を真っ直ぐに見つめてくる。


 なんだろう……もしかして僕に惚れちゃったのかな?



「ご不満でしたら、今日の手続きは無かったことに。どうぞ、お引き取りを」


 うーん。どうしよう、困ったな。


 美女との出逢いを無かったことにするのは、僕のポリシーに反する。


 せめて、なにかで実力を示すことができれば良いんだけど。


 見せしめになってくれるような人間なんて、そう都合よく現れないよね……。



「おい、黒髪男。なにをさっきから、グダグダとネーさんに絡んでるんだ?」

「え……?」


 突然声を掛けられた。僕は仕方なく、その声のした方を振り返る。


 そこにはモヒカンヘッドの筋骨隆々男が、ギラギラと光る大剣をチラつかせながら僕を見下ろしていた。


「あんま調子乗ってると、この銅ランクのエースであるモネギカ様がお前をぶちのめしちまうぞ?」


 あれ? この展開ってもしかして……



「か、カモが大剣しょってやってきた――!!」




――――――――――――

次話は本日お昼あたりに更新予定です!!

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