第4話 ちなみにトイレの紙もこれでした。
「ぶえっくし……ぶはっくしょぉおおい!!!!」
「おい、大丈夫かお前さん……ていうかそれ、本当にクシャミなのか?」
門番のおっちゃんは、僕が渡した通行料のジュエル銅貨を受け取りながら心配そうな表情を浮かべた。
「うん……なんだか急に寒気がしてね。どこかの可愛い子ちゃんが僕の噂でもしたのかな?」
なんて言ったって、僕は世界を救った英雄なんだし。イケメンの僕に恋した女の子たちが話題にしていてもおかしくないよね。
「なんだよ、今度は急にニヤニヤしだして気持ち悪いな。ほら、これやるから鼻水を拭けよ」
「お、冴えない見た目の割に、案外気が利くねぇおっちゃん! ありがとう……ずびびびっ」
おっちゃんから何の木か良く分かんないゴワゴワした葉っぱを受け取り、ズビーと鼻をかむ。
うーん、僕の繊細な肌には合わないなぁコレ。
「受け取っておいて嫌そうな顔すんなよ……ていうか、その背中の袋に詰まってんのは、マジで軍隊カメムシなのか?」
「え? うん、そうだけど?」
このキコリーフの国までたどり着くまでに、空だった背中のバックパックが満杯になるまでの軍隊カメムシをゲットすることができた。
アイツら自分の防御力に相当プライドがあったのか、僕に当たり負けしたのが悔しくて途中からヤケになっていた。
数十単位の軍隊カメムシが、僕を目掛けて落下攻撃をしてきた。
結果は僕の圧勝だったんだけどね。
おかげで高価で売れるカメムシの殻が手に入って、僕はホクホクだ。
……まぁ、ちょっとカメムシ臭くなっちゃったけど。
「これだけの軍隊カメムシを集められるって……マジで変な黒髪のニーチャンだな」
「む、もしかしてキコリーフでも、この黒髪って嫌われているの?」
おっちゃんは鼻を自分の手で摘まみながら、僕の頭を見た。
って、ちょっと聞き捨てならない言葉が聞こえたぞ?
葉っぱの恩はあるけど、この母さん譲りの髪を馬鹿にするのは許せない。
ちなみにこの黒髪ってかなり珍しいみたいで、生まれ育ったサウスレイクでも、僕と母さんしか見たことがない。
生まれ持ったものがレアってだけで、ちょっと優越感に浸れるよね、うひひ。
「うん? 嫌われている……って、その黒髪がか?」
「え? あ、その……うん」
……まぁ、父さんと母さんの行い(主に詐欺行為)のせいなんだけどね。
あまりに悪評が立ちすぎて、ひと目で分かりやすいこの黒髪は詐欺師の象徴みたいになっている。
おかげさまで、サウスレイクではこの黒髪はかなり忌み嫌われていたっけ。
「いや、この国ではそんなことはないが……ただ、珍しいのは事実だな。俺はここで30年以上門番をしているが、獣人やエルフといった希少種族を見たことはあっても、黒髪の奴はお前さんが始めてだ」
「獣人とエルフっ!? すごい、僕は見たことがない種族だ……ていうかおっちゃん、30年も門番って本当? 仕事ができなくて昇進させてもらえないの?」
魔王を討伐する旅に出ていた僕だけれど、なぜか見ていないんだよね。
いいなぁ、見てみたいなぁ。
獣人族にエルフ……
モフモフに美形……
ふふふ、実に僕の性癖にぶっ刺さりそうだ!!
「おい、失礼なことを言うんじゃねぇよ。俺は門番って仕事に誇りを持ってんだ。……まぁ昇進できないのは本当だけどよ」
「んー、そうなの?……そっかぁ。ゴメンね、おっちゃん」
「ふんっ、別にそこまで気にしてねーよ。ほら、通行証だ。失くすなよ」
ポンっと僕の手に投げ渡されたのは、小さなブロンズ製のプレート。
どうやらこれが国に入るための通行証みたいだ。
表には大きな木の葉が彫られている。
「あれ? この葉っぱって……」
「おう。キコリーフの国章であり、国を代表する木であるキコリーの木の葉だ」
「ふぅん……これってキコリーっていうんだ」
僕がさっき鼻をかんだ時に使った葉っぱ、これもキコリーだったんだ。
そういえばこの王都に来る時に抜けた森の木も、こんな形の葉っぱをしていたかも?
「ありがとう、おっちゃん。僕、この国で有名になるからさ。その時にはおっちゃんに酒を
「ははは、あまり期待せずに楽しみにしてるよ。それよりも、俺の国で悪さだけはすんなよな」
なんだよ、悪さなんてするわけがないじゃん。
僕はこう見えても、世界を救った英雄なんだぞ?
「じゃあね、門番のおっちゃん。達者でな~!!」
僕はポン、とおっちゃんの手にお礼を置くと、木で出来た立派な門を通り過ぎる。
さぁ、この国でも僕は英雄になってやるぞ!!
待っててね、僕の可愛いお嫁さん!!
「うわっ、これ鼻かんだ葉っぱじゃねぇか!! さっそく悪さしやがって、このクソ黒髪め!!」
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