思い出の場所
――もちろんだとも、おばあちゃんが約束するよ。
――じゃあ、おばあちゃんもヒナがお嫁さんになるとき、結婚式来てくれる?
――……
小一時間電車に乗り、僕らはとある駅に辿り着いた。ここは見覚えがある。小さな頃、毘奈と一緒によく連れて来てもらった場所だ。
駅を出て、哀愁漂う商店街を抜けて行くと、その場所はあの頃と変わらず、今もひっそりとそこにあった。
「どう、吾妻、懐かしいでしょ? よーし、今日は気合入れて一生懸命遊ぶぞ!」
毘奈は唖然とする僕に、得意気な様子で微笑みかけると、両手を上に挙げてグッと体を伸ばした。
そこは、今をときめく若者たちがこぞって行くような、海辺のアミューズメントパークなどではない。ただの古くて安っぽい、寂れた遊園地であった。
そうだ、ここは亡くなったばあちゃんが、小さかった僕と毘奈をよく遊びに連れて来てくれた遊園地だ。
「ああ、もうどのくらい来てないんだろう……」
小さな頃、夏休みにでもなると、日中は忙しかった両親の代わりに、僕の面倒を見てくれたのは母方のばあちゃんだった。
そして、早くに亡くなっていた幼馴染の毘奈の祖母は、ばあちゃんの旧来の親友であったのだ。その為、幼い僕とよく遊んでいた毘奈のことを、ばあちゃんは本当の孫のように可愛がり、毘奈も本当のばあちゃんみたいに懐いていた。
優しいばあちゃんに手を引かれ、この小さな遊園地に連れて来てもらうことが、幼かった僕と毘奈にとって何よりの楽しみだった。
よく見れば、年季の入ったアトラクションには、塗装剥がれやサビが各所に見られた。だがこれも、時間が止まったみたいにあの時のままだ。
僕がそうやって懐かしさに浸っていると、毘奈ははしゃぎながらとあるアトラクションへと駆け出していく。
「吾妻! これこれ、ここに来たらまずこれに乗らないと!」
「そ……それか」
入口近くにあったのは、席に座って空中を振り回される絶叫系のアトラクションだった。小さい頃から毘奈はこれが大好きで、酷いときは十回くらい連続で付き合わされたっけ。
そのトラウマがあってか、僕はこのアトラクションに座っただけで、眩暈がしてくるんだ。
「きゃはははは! 吾妻も手あげようよ!!」
「う……ぼ、僕は、いいぃぃぃぃ……!!」
滅茶苦茶はしゃぐ毘奈の横で、僕はきっとこの世の終わりみたいな顔をしていたに違いない。なるほど、これが毘奈の用意した地獄の一丁目ってやつか。
「あー楽しかった! 吾妻、次はあっちのジェットコースター乗ろ!!」
「ええ!? 二回続けて絶叫系かよ?」
「な〜に? 嫌なの、吾妻?」
「い……いや、喜んで付き合うよ!」
「うん、よろしい!」
ふと油断してたら、毘奈がしたり顔で凄んできた。ダメだ、今日の僕は絶対にこいつに逆らうことはできない。
仕方なく、僕は毘奈の後ろからくっついて行く。こっちのジェットコースターも、僕にとっては曰く付きなんだ。
「やったー! 吾妻、私たち先頭の席だよ!」
「ぐぐぐ……なんでこう悪いことばかり……」
このジェットコースターは、別に富士山の近くにある遊園地みたいな、落差ウン百メートルの超絶絶叫マシーンってわけじゃない。
一番怖いのは、車体やレールの各箇所が老朽化してて、軋んだり変な音をたてるのが、気味の悪い恐怖心を誘うってことだ。
「もう少しだね、吾妻! わくわく、わくわく!」
「こ……この音、だ、大丈夫なのか?」
ピークへ向けてゆっくりと登るその年季の入った車体は、あの日以上に異音を放ち、レールは期待を裏切らずギシギシと軋んでいた。
毘奈のテンションと僕の恐怖のボルテージも、それに併せてどんどん上昇していく。
そして車体が下へ傾くと、僕はそのまま車体ごと地上に落下して、地面に叩きつけられるような幻覚を見たんだ。
「おおぉぉぉーー!! 気持っちいいぃぃーー!!!」
「ううぅぅぅ……気持ちわるぅぅぃぃ……」
そうして毘奈の地獄のような先導の元、僕はたった数時間のうちに、あらゆる凶悪なアトラクションの餌食となっていった。
(まだだ、こんなところで負けるわけにはいかない。明日は……明日は、憧れの榛名さんとの初デートなんだから!!)
僕はその希望を胸に刻み、この地獄の使者から受けるあらゆる試練に耐えたんだ。
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