幼馴染とお出かけ
次の日、僕は毘奈に言われた通り、すぐ近くの彼女の家に迎えに行った。
インターホンを押すと、三秒も待たずして玄関から毘奈が飛び出してくる。
「おっはよー、吾妻! お迎えご苦労、大儀であった!」
「ったく……相変わらず、朝からテンションたけーな……」
「ん……なんか言った?」
「い……いや、なんでもないよ! おはよう、毘奈」
おめかしして準備万端の毘奈は、淡い水色のワンピースを着て、少し大きめのトートバッグをさげていた。
これは明らかによそ行の格好だ。何しろ、いつもはTシャツと短パンで近所をうろうろしているんだからな。
「あーずま、見て見て! このワンピ、買ってもらったばかりなんだ! どう? 似合う? 似合う?」
毘奈はトレードマークのポニーテールと、おろし立てのワンピースの裾をたなびかせながら、得意気にくるっと回って見せた。
悔しいが、確かに似合っていた。何も知らない男子であれば、コロッとやられていただろう。ただ、僕がそれ以上に思ったことは。
「ああ、似合ってる……ていうか、なんか毘奈がそういうの着てると、小さい頃のこと思い出すな」
そうだった。あの夏の日の昼下がり、いつも毘奈はこんなワンピースを着て、縁側からひょこっと顔を出し、僕に外で一緒に遊ぶようせがんでいたっけ。
そして、僕は泥だらけになるまで毘奈に付き合わされ、その挙句に母親に怒られていたんだ。懐かしいけど、複雑な気分だった。
「そうだね、最近私、ワンピ着ないもんね。でもね、今日は特別な日だからさ、オシャレしたんだ!」
「……え?」
「細かい話はあと! 時間がもったいないよ、早く行こ! 吾妻」
首を傾げる僕を尻目に、毘奈は速足で嬉々としながら進みだした。
僕は毘奈の奇妙な言葉に疑念を抱きながらも、連れられるがまま地元の最寄り駅へと向かう。
まあ、このまま地元で連れ回されなかったのが、僕としてはせめてもの救いだ。せっかく榛名さんと付き合えることになったのに、万が一毘奈なんかとデートしていたなんて噂でも広がってみろ。僕の幸せが全て水の泡となってしまう。
「それにしても、他人が聞いたら、えらい事態だよな……」
曲りなりにも学年一二を争う可愛い女子二人と、土日で代わりばんこにデート(?)することになるとはな。学年中の善良な男子生徒諸君が聞いたら、僕は袋叩きに合っちゃうだろうね。
僕は毘奈に言われるがまま、同じ金額の切符を買う。幸いにも、交通費を出せとまでは言われなかった。僕が大してお金を持ってないことを、知っているからだろう。
「なあ、いい加減どこに行くのか、教えてくれないか?」
「ダーメ、着いてからのお楽しみなんだから♪」
ここまで来ても、目的地は秘密であるらしい。僕としては、一体どこに連れて行かれて、どんな仕打ちを受けるのか、不安で仕方がないのだが。
電車に乗ると、毘奈は外の景色を見ながら、まるで小さな子のようにはしゃいでいた。
「吾妻、見てあれ! あの面白い形のアパート、まだあるよ!」
「……そうですね」
土曜日の行楽地に向かう家族連れ、はたまた今の僕には複雑に見えるリア充カップルに囲まれた車内。
僕は大いなる不安を抱きつつ、どこの地獄かもわからない目的地への到着を待ったのだ。
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