手紙

 分かっていたさ。僕みたいなイケメンでも何でもない皮肉屋が、まさか榛名さんとお近づきになんてなれるわけがないってね。

 だから、今日も僕は穏やかな日に照らされながら、窓際でボーっと授業を聞いているのさ。



 「……ん、なんだこれ?」



 ふと気付くと、僕の机の上には見覚えのない紙屑が置いてあった。

 なんだよ? 誰かの悪戯か? 人の机にゴミなんぞ捨てやがって。



 (これ……なんかのメモか?)



 よく見てみると、その紙屑は小さなメモ帳かなんかを何重にも折ったもののようだった。

 ああ、これはあれか? よく女子が授業中とかに回しっこしてるあれなのか?

 正直、今までの人生の中で全く縁のないような代物だったので、僕は何かの間違いかと思って開けるのを憚った。



 「まあ、いいか……」



 だが、どうせ大した内容も書かれてないんだろうし、間違いなら間違えた奴が悪いんだ。

 僕は謎に包まれた女子の生態を垣間見るチャンスだと思い、その未知のメッセージを開いてみることにした。



 (えーと、なになに……)



 “いきなりごめんね。今日の放課後、体育倉庫の裏に来てくれないかな? ちょっとお話したいことがあるんだけど――”



 ほうほう、どうやら誰かからの呼び出しらしい。一体誰がと思い、僕はメモの続きを読んだ。



 “――みんなには内緒だよ、お願いね! ――あまね”



 ……あまね?



 ……あまね?



 ……雨嶺!!?



 間違いない。これは榛名さんの名前だ。しかし一体僕なんかに何の為に?

 いや待て、落ち着け! 僕の頭から、これは届け間違いであるという前提が、どっかに吹っ飛んでるぞ。

 そうだ、榛名さんからお呼び出しなんてあるわけがない。……と、僕は恐る恐る前の方に座る榛名さんをチラ見する。



 「……え?」



 するとどうだ。あの榛名さんが……榛名 雨嶺さんが僕に手を振りながら、ニコニコと天使のように微笑んでいるじゃないか。

 僕は慌てて、ほんとに自分? と、人差し指を顔に当てて合図する。彼女は少し恥ずかしながらそれに肯いて見せた。

 僕は自分の頬を内出血が起こりそうな勢いでつねった後、アホみたいに何回も首を縦に振る。彼女はそれを見ると安心したように前を向いた。



 これは来た……来るべき時なのだ。僕は胸に大きな決意を秘め、来るべき放課後を待った。

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