クラスのマドンナ的美少女にいきなり告白されたと思ったら、幼馴染にエチィ本を買ってるところを見つかってゆすられる青春ラブコメ

szk

一番可愛いのは誰?

 ――ヒナちゃんは、大きくなったら何になりたいんだい?

 


 ――ヒナね、ママみたいになりたいからお嫁さんになるの!



 ――……



 十四歳……それは恋の予感……青春の始まりである。



 女子の胸が膨らんでいくのと同じくして、男子たちの心に芽生えた新たな夢もまた膨らんでいく。

 今まで女子のことなんて興味ないと、頑なに意地を張っていた男子たちの砂上の楼閣も、いよいよその青き春風によって崩れ去るのだ。

 


 「おい、やっぱさ、うちの学年で一番可愛いのって、あの二人のどっちかだよな?」



 中学二年の二学期、まだまだ残暑長引く九月の半ば、昼休みの教室でのことであった。

 僕が窓際の席で一人ボーっとしていると、近くで数人の男子たちが、IQ3くらいのノリでニヤニヤしながらある話題で盛り上がっていた。



 「一人はうちのクラスの榛名はるなさんで決まりだよな」

 「うん、そこは固いね、異論なし!」



 男子たちの話題といえば、専ら同学年の女子で誰が一番可愛いかなどという、何の生産性もなくしょうもないものばかりだ。

 僕はボーっとしながらも、彼らのしょうもない話題に聞き耳を立て、密かにその意見に相槌をうっていた。

 


 (ふん、お前ら、馬鹿のくせにわかっているじゃないか……)



 机に突っ伏していた僕は、顔を上げて教室の前の方で他の女子と楽しそうに喋っているある少女を見た。

 白い肌に涼し気な目元、大人っぽいセミロングのショートレイヤーが、控えめで上品な印象を与える容姿端麗のまさに美少女だった。

 彼女こそ、このしけた教室に咲いた一輪の百合の花、学年中の幼気な男子たちのハートを虜にする榛名 雨嶺はるな あまねさんなのだ。



 榛名さんの美しさにボーっと見惚れていると、僕の視線に気付いたのか、彼女は僕の方を見つめて柔らかく微笑んだ。



 (ややや……やばい!! 目が合った! ちょ……超可愛い、眩し過ぎる!)



 僕は慌てて目を逸らし、さも隣で盛り上がっていたしょうもない男子たちの輪に入っている振りをした。

 いや、しかし汗が止まらん。彼女の半径二メートル以内に近寄っただけで、きっと僕は茹でダコのようになってしまうに違いない。



 「もう一人もまあ、言うまでもないよな……」

 「ああ、あの子だろ?」



 まあいい、ここは心を落ち着かせる為に、彼らのしょうもないお喋りに付き合ってやるとしようじゃないか。

 で、うちのクラスの最強美少女、榛名 雨嶺さんと恐れ多くも双璧をなすという謎の美少女って一体誰なんだ?



 「五組の天城あまぎさんだよな……」

 「ぶぅぅぅーー!!!!」



 想定外の答えに、僕は思わず吹き出してしまった。周囲の男子たちは僕に注目をする。



 「あ、天城って、もしかしてあの天城 毘奈あまぎ ひなのことか!?」

 「そ……そうだけど、どうしたんだよ、那木なぎ? 天城なんて名前の奴、学年に一人しかいないだろ?」



 ああ、その通りだ。僕の知る限り奴は一人しかいない。世界に天城 毘奈が二人もいて堪るもんか。



 「ななな……なんで天城 毘奈なんだよ!?」

 「なんでって、そりゃ可愛いからに決まってんだろ? ……なあ?」

 「ああ、あの愛くるしい笑顔に、男の永遠の憧れポニーテール……」

 「控えめな榛名さんとは違って、明るくて元気なのもいいよな!」

 「そうそう、部活で少し日に焼けた小麦色の肌がまたいい!」

 「陸上で流してるあの爽やかな汗が堪らない! 天城さんの汗なら全然飲み干せるぜ!」

 (死んでしまえ……)



 天城 毘奈の魅力を情熱的に語る彼らに、僕は唖然としてしまった。

 とういうのも、僕は天城 毘奈のことをよく知っている。何を隠そう、毘奈は僕の幼馴染なのだ。

 だから僕は、天城 毘奈に対して彼らみたいな幼気な幻想なんて抱いちゃいない。



 「あ、そうか、那木って天城さんと同じ小学校だったっけ?」

 「も……もしかして、知合いなのか!?」

 「あ……ああ、一応家が近いし、小さい頃から知ってるけど」

 「くぅぅー!! なんて羨ましいんだ!」



 僕が毘奈の幼馴染だと知った途端、彼らのテンションは更にうなぎ上りとなった。



 「あのさ、皆んな勘違いしてるみたいだけど、毘奈って結構ガサツで鬱陶しいし、すぐに人を揶揄って馬鹿にしてくるんだぜ? 小さい頃から、あいつに何回煮え湯を飲まされてきたか……」

 「お……おい、那木」

 「ん……何?」

 「お前……天城さんのこと、毘奈……て、名前で呼んでるのか?」

 「あ……まあ、そうだけど」

 「な……なんてことだー!!!」

 「クソー!! 今度絶対紹介しろよな! なっ!!」



 ダメだこりゃ。僕がちょっとこづいてやったところで、彼らの天城 毘奈に対する幻想はダイヤモンドよりも硬いようだ。



 ああ、僕だって分かってる。あいつはスポーツ万能で、勉強も僕よりできて、おまけに誰とでも仲良くなれるコミュ力モンスターときてる。

 まあ、見た目だってどんなに低く見積もっても人並み以上だろう。それも分かってる。

 問題はそんな毘奈に対して、僕がコンプレックスを持ってしまっていたということさ。小さな頃、うちの親の口癖は、「毘奈ちゃんを見習いなさい」……だったっけかな。



 まあ、その辺の僕の個人的事情は置いておこう。



 榛名 雨嶺さんと天城 毘奈のどっちが可愛いかだったっけ?

 おいおい、愚問だな。本気で聞いてるのか?



 そんなもの、誰が何と言おうと100億パーセント榛名 雨嶺さんに決まっているじゃないか!

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