参
大正五年の冬。かの文豪、夏目漱石が没した日の夕暮れ。
私は、ここ
お母様、お父様、ともに厳しくも優しい方で、私はひとり娘として「
そして十六の頃。境内を掃除していた私は、参拝者として訪れていた
私はこの歳まで、外のことを十分に知らず育ちました。この国の八百万の神々のことはお父様が、礼儀作法とお料理はお母様が、そして勉学や流行りのことは女学校の先生と子女達が教えてくださいましたが、労働や経済のこと、村民の暮らしについては全くといってよいほど無知でした。
しかし、正一さんはこの国をよくご存知でした。無知な私を見下して笑うことはなく、気前よく色々なことを教えてくださいました。
どれもこれも私には眩しく思えました。
出会ってしばらく経ち、正一さんは時折身の上話をしてくださるようになりました。農村で貧しく暮らす両親は身体を壊しがちで、その治療費を工面するため、
月に何度か、僅かに膨らんだ
私のお母様もお父様も、品行高く知識の広い正一さんを大変に好いておりましたし、私自身も正一さんとここで
この鬼頭家を継いでいかなければなりませんし、何より私も年頃ですから、正一さんとの子を授かって母になりたかったのです。両親がそうだったように、暖かく幸せな家庭を夢に見ていました。
その話をすると正一さんは嬉しそうに、すぐにでも一緒になろうと言ってくれました。そして、次の満月の日に内々に神前式を行うことを決めたのです。
婿入りが決まった後、正一さんはあの凛々しく優しい笑みを浮かべて、私に言ってくださいました。必ず幸せにすると…うわべではないその言葉が嬉しくて嬉しくて、そして
ゆびきりげんまん うそついたら
はりせんぼん のます ゆびきった
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