第9話

何の予定もない日曜日、僕は海に居た。


大学では相変わらず友達は居なかった。

僕は『孤独』は苦にならなかった。

ただ『退屈』は苦手だった。

部屋でだらだらと時間を潰したりするのが嫌だった。

だから特に予定のない休日は、すっかり僕の愛車となっていた原付であちこちツーリングに出掛けた。


この日はT市の海に来ていた。

ここは風力発電所があるくらい風が強い地域でウインドサーフィンをする人達がたくさん海に出ていた。

上手な人は風を捕まえあっという間に滑る様に沖まで出ていった。

あまり上手じゃない人はしばらく進んだと思ったらすぐに倒れた。

僕はこの海岸で海を眺めながら時間を過ごすのが好きだった。


ポケットから紙片を取り出した。

僕はここ何日間かずっと迷い、考えていた。

僕は正しい事をしようとしているのか?

それとも愚かな事をしようとしているのか・・・


砂浜に座っている僕に夏の日差しは容赦なく照りつけた。

もう一度親父から渡された紙片を見た。

日差しはあまりにも強く、僕の思考を溶かしていった。

僕はポケットからスマホを取り出し書かれている番号に電話をした。

3コール目でつながった。

僕は自分の名前を告げた。

自分は桂木 明の息子である事。

父は病に伏しており病状は楽観出来るものではないという事。

父から『父と貴女との関係』を聞かされて今この様な電話をしているという事。

この連絡は父から頼まれた事ではなく、僕自身の判断である事。


そして最後に、

「この様な電話に対して貴女は嫌悪感を抱くかもしれない。もしそうであるならお詫びします」

と付け加えた。


ここまで一気に話終えると僕は小さく息をついた。

しばらく沈黙があった。

彼女がおもむろに話始めた。

まず、父の容態を気遣うお見舞いの言葉を、そして今とても驚いているという事、そして驚き戸惑ってはいるが、貴方が思っている様な、貴方からのこの連絡に対して嫌悪感など抱いていないという事。


彼女はとても良く通る声で凛とした口調でこう答えた。


僕は思い切って切り出してみた。


『ご迷惑でなければ一度貴女にお会いしたい』と。


電話の向こうで彼女は小さく笑った様だった。

そして『こちらは全然構わないからいつでも訪ねてくれていいい』と。


明日の正午に会う事になった。

『お昼ご飯は食べずにいらっしゃいね』と彼女は言った。


目に見えない運命の歯車の回るスピードが少しだけ速まった様な気がした。


明日、僕は如月麗子に会いに行く。

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