第6話新たな波が打ち寄せてくるのを

新たな波が打ち寄せてくるのを

ただ待つばかりでなすすべもなく

開かれない扉から溢れてくる

真珠色の涙がとめどもなく流れて

部屋を満たしてゆくまで止まるところを知らない

流されなかった涙と題されたその作品を

立ち尽くして鑑賞するとき

無尽に見えた夜の底に蠢く目たちから

一斉にこぼれ出る涙はアメジストの色をして

やがて鉱石に結晶するまで百年の時を要し

その中央に横たわる老婆の遺言が胡乱な言葉だったことを

キャンプションに書き足されたのち修正されて

書き加えられた単語は不可解なまま

鑑賞者の心に訴えかけることもない

虚ろな部屋は収縮を繰り返し

その有機的な体に涙という羊水を宿して

鑑賞者を呑みこんでゆく

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