2033年11月3日 - 一人身の幸せ

この日は文化の日で、祝日。

つまり休みである。

よって今日は一日中家にいる。

そう決めたのだ。

楽しむものも何も無く、無味乾燥している部屋で一人、窓から風景を眺める。

風が流れ、雲が吹き、日は沈む。

あぁ一日中ここにいたのか。

そう思って夕食を用意する。

運動もしていなければ、何もしていない。

昼食も食べそびれたのに、特に空腹感はない。

何だか満たされた気分なのである。


メールを見ると何件か着信がある。

そのうちの1件に、こうあった。

「11月4、5、7日は全館休業とします」

もし隕石が落ちて世が終わったならば、

他人と会うのは昨日が最後だったという事になる。

もう二度と会う事はない。

もう二度と文句を言われない。

もう二度と理不尽に怒られない。

もう二度と面倒な後輩に頼られない。

そう思うと、この夜は不思議とよく寝られた。


この世の苦しみというものから解放され、

人類の安楽死のように思えてくるのである。

そう考えると、もう何もしなくていい、

もう大丈夫なんだと思えて、

安堵感が押し寄せてくる。

昨日は辛さで涙を流したが、今日は嬉し涙だ。

家族と喧嘩もせずに、無事に一生が終わる。

葬儀で迷惑も掛けず、世界が一斉に終わる。


もう携帯電話はオフにして、

一人の生活をこの家で静かに楽しもう。

そう思って、寝床に就いた。

こんな幸せな眠りは人類史上無かっただろう。

それほどに幸せであった。

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