第24話 *惑溺*

 信長から見たかつての仙千代は美しくも飾り気がなく、

純真、純朴で、尚も言うなら、

何処か田舎臭く野暮ったさもあり、

それが仙千代の雌雄を超えた容貌と混ざり合うことにより、

何とも曰く言い難い不可思議な魅力となっていた。

 

 見初めてから二年と半年が経ち、身を投じた環境により、

日々、薄皮を剥ぐように洗練の度を深める今の仙千代は、

ある瞬間には最も美しい少女、

ある瞬間には最も美しい少年として映り、

内包している善美が、ふとした表情や仕草に浮かび上がって、

美麗を見慣れた信長の目さえ飽きさせることがなかった。


 また仙千代の聡明さには角がなく、

耳を澄ませば実のところ、鋭いことを口にしているのだが、

いったん仙千代の放つ言葉となると怜悧さは消え、

温厚な印象となり、相手から警戒心を奪い、

いつの間にか打ち解けてしまっている。


 笑窪えくぼでずいぶん得をしておる……

穏やかな声の調子も心地よい……


 仙千代は信長が最も寵愛を傾ける存在といって良く、

将来への期待という面からも最有望の逸材だった。

 竹丸が秀でて賢明な為、

年齢や出仕時期が一年遅れの仙千代は、

追い付くことが難しいだろうと見ていたが、

超然とした性格をした竹丸が、

仙千代の世話だけは買って出るようなところがあって、

仙千代の人徳なのか、

竹丸の幼馴染に対する友諠なのか、

ともあれ有能な二人がほぼ肩を並べた現状は、

信長にとり、大いに満足すべきことだった。


 そして、こればかりは声に出して言えないが、

仙千代は閨房においても逸材だった。

 精が強いであるとか、好奇心旺盛であるとか、

そういった類の話ではなく、

基本、まず絶対的に聡く、それが褥でも生きていて、

その日その日の信長の波長を察知して、

合わせる術を自然と会得している上、

天然の様々な表情を持っていて、

蠱惑的かと思えば慎ましやかで、

そうかと思えば清純そのもの、

とある時は翳りを帯びて悩ましく、

意識してか無意識か、何人もの仙千代が居て、

親子ほども歳の離れた信長がその変幻自在ぶりに、

圧倒されかねないことさえあった。


 仙千代には溺れる……

いや、もう、溺れている……


 多くの夜を重ねてきた信長が仙千代には惑溺していた。

仙千代を知ってからというもの、


 身体が合うというのは斯様なことか……


 とも知った。

何も手練手管を弄して高めずとも、

呼吸が合って、あっさり終わる日も満足が深い。

しっとり熟した女も、初々しい美童も良いが、

仙千代から得られる快楽は別のものだった。

 今は青さを残した仙千代が、

あとしばらくしたなら、

どのように成熟の度を高めているのか、

艶めかしい期待が募る。


 今も仙千代は仰向けの信長の上に跨り、口淫に喘ぎ、

微かに含羞を漂わせつつも重ねた視線を外さず、

むしろ時に挑むかのような表情を瞳に浮かべる。

 それが隠微でありつつも清らかな風情もあって、

そのような仙千代に接すると、

一夜でも、一時ひとときでも多く共に過ごし、

昨日よりも今日、

今日より明日はいっそうの歓喜に達してみたいと思う。


 逃げ腰で、

もしや儂を嫌っているのかとさえ思われた仙千代が、

あの仙千代が、このように……


 未熟な果実のようであった青い茎が健やかに成長を遂げ、

少しばかり茂りを見せつつある薄っすらとした草叢くさむらから

天を向いて突き上がり、口と舌で翻弄してやると、

信長に対し、騎乗に近い体勢の仙千代が半ば腰砕けのようになり、

褥に手を着き、尚、腰を浮かせたまま、


 「ああん、ああーん、あうう」


 と髪を乱して身悶えする。

 その酔い痴れる様は他の誰も知らず、

信長だけのものであると思うと、

これほど魅惑的な生き物を独占する喜びと、

無垢そのものだった仙千代をここまでにしたのだという、

得も言われぬ満悦が陶酔となる。


 今でさえ十二分に足りているのに、

仙千代が相手であれば、

尚も極みを味わうことがあるのではないかと、

死が隣り合わせの世なればこそ、

期待する思いもあった。






 


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