第25話 *笑窪*

 信長が何ら指示を与えずとも、自ら姿勢を変え、

口淫されつつ、仙千代もまた信長の陽物を同じようにした。


 清純朴直な仙千代が、閨房では変貌し、

淫らな百変化を見せる。

落差がこれほど大きな者は過去、居なかった。


 菩薩の化身のようであった汚れない童が、

今ではこのように乱れ、激し、かと思えば、

やはり菩薩の子かという清らかさを見せ……

 誰にも渡しはせぬ……

誰にも、決して……


 仙千代が頂に駆け上がる寸前で信長は止め、

今度はうつ伏せにし、

双丘を両の手で開くと薄桃色の小さな蕾に舌を這わせ、

仙千代が腰を引き気味にしたところでは、

逃さず捕らえ、むしろ舌先を挿し入れた。


 短くない間、仙千代の後孔には指しか挿れないでいた。

成熟をみない身体を傷付けることは憚られ、

仙千代が求めるまで、

一つの身になることを耐えて忍んだ。

 仙千代に望まれて溶け合った日も最奥までは侵さず、

未だにそれは続いている。

 仙千代は時に激情し、そのような時、

奥まで突けと懇願するが、成長過程の身を慮り、

焦らせる格好のままになっている。

 衆道の契りで、仙千代よりも年若い他の小姓を抱く時に、

そこまでの注意を払うことはしないのだから、

我ながら仙千代は特異な存在だと認識していた。


 褥に四つん這いになり、

尻を突き上げている仙千代の背後から腰を抱き、

今の仙千代が受け容れられるぎりぎりまで陽物を侵入させた。

 愉悦を堪能し尽くそうと眉根をひそめ、喘ぎ、

悶える仙千代の腰の二つの笑窪えくぼが妖しく形を変える。


 「この腰の笑窪が好きじゃ……

仙のよがり具合が笑窪で分かる……」


 「ううん……ううん……よがってなど……」


 「よがっておるではないか。盛りの時期の獣のように」


 「仙千代は……獣ではございませぬ……」


 「それは確かじゃ……

儂の仙は、仙千代という生き物じゃ。

他には居らぬ、特別な……」


 いっそうのよがり声を聴きたいと所望してみせると、


 「左様に、そんな……

はしたないこと、致しませぬ……けして、けして……」


 と言いつつ、信長が望んだとおりの声をあげ、

猛り切った根元まで呼び込もうとする仙千代は、

信長の陰茎の埋もれていない部分に手を伸ばし、


 「殿の御気が済むようになさってくださいませ、

それが仙千代の喜び……」


 と、後孔をぐっと締め付けてきた。


 「良いのか?壊れぬか?」


 もう辛抱の限界は超えつつあった。

が、大人の対応を……

いや、大切過ぎる仙千代に許しを請う感情がそれを言わせた。


 仙千代は幾度か小さく頷き、


 「壊されとうございます……殿になら……」


 と、殺し文句をさらっと呟く。


 実情は、

一段と強烈な悦楽を求め、欲しているのに違いなかった。

それを敢えて恩着せがましく口にして甘い睦言に変える。

 誰が教えたわけでもないことは明白だった。

仙千代が本性に秘める妖しの部分だと信長は思った。

仙千代は、

性の領域に関しては仙千代自身も気付いていない、

魔性というべきものを持っていた。


 猛った牡のすべてを呑み込んだ仙千代のほらは、

肉壁が吸い付き、締め上げ、信長を狂わせた。

仙千代の嗚咽が叫びにも似た歓喜の悲鳴に変わる時、

互いに蕩け合って、同時に果てた。


 やがて、信長の身を濡れた手拭いで清め、

乱れた褥を端正な所作で直した仙千代は、

もう、何事もなかったかのような顔をしている。

 信長が引き寄せ、唇を重ねると、受け入れつつも、


 「少し汗をかきました。外で涼んでまいります」


 と言うと、信長があとしばらく共に居るよう誘っても、


 「風に当たりたいのです。殿の熱さに火傷を負いました」


 と小憎たらしくも可愛らしい台詞を残し、

部屋を出て行った。


 他の者は絶対にしない、

信長の寵愛を知った上での勝手気ままな振る舞いであるが、

今や惚れた弱みで許さざるを得なかった。

仙千代は相変わらず、

最後の最後、何処か、正体が知れなかった。

この手に捕らえたと思った直ぐ後にふいっと擦り抜けてゆく。


 乱れた髪を整えて、居住まいを直した仙千代が、

作法通りに退室する際、褥で片肘に頭を乗せた信長が、


 「二人の時に作法は無用ぞ」


 と伝えたが、

優し気に笑んだ仙千代はあくまで作法に従った。


 何を考えているのやら……

気まぐれ、気ままな仙千代様じゃ……

しかし、そこもまた良し、か……

飽きぬことは間違いない……


 信長は絶対権力を持つ大人の男である自分を認識していた。

十代半ばという微妙な年頃の愛童が、

信長という大きな海の中に泳ぐ小さな魚であることは、

十分理解し、好きに泳がせるのもまた一興だと考えていた。


 



 


 


 


 





 


 










 





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る