第17話
「さあさあ皆さま方見ていってくださいな。これが当店一の切れ味と魔力耐用量を誇る剣でございますよぉ」
「ほらお客さんそっちばっか見てないでこっちにも目ぇくださいよ。今はジェーニャで豊作の時期なもんでいい食材たんまり入ってまっせ」
「そこの若い坊っちゃんこっちいいもんあるよ、ぜひ見てってくれぇ」
「あい。またよろしくなー」
今日は父様の付き添いで夏休みぶりに首都のオリジオに来ている。
この町はいつ来てもにぎやかで商人の声があちらこちら四方八方より絶え間なく響き、人々もそれによって自然と優しい表情となっている人が多い。
だが僕としてはいつも過ごしている地元ルイルジェントの方が過ごしやすい。
まあ理由は色々あるとは思うが一番は「静か」なことだろう。確かに外の国から来た人々や物品、言葉を見聞き出来て流行や関係を気付くことが出来る点に関しては首都ならでは。もちろんそれも悪くはないんだけれど、あの空気感や自然に触れられる感覚はこういう都ではあまり味わえない。
「おいリヴィ、この町に入ってきた時の事覚えてるか?」
「何を言うんですか父様、当然覚えてますよ」
今から遡ること二時間ほど前、僕は自分の部屋でいつも通り着替え、数日前にあった野外実習のまとめをしながら本を広げ物色。
しばらくしてドッドッドと父様がすごい勢いで僕の部屋に来た。
「リヴィ、首都のお店に良い状態のレア物鉱石と新しい魔工具が入荷したらしい。見に行ってみないか!」
「えっと、でも父様ここ数か月で結構お金使ってますけど…本業がうまくいってるからって慢心して過去にも痛い目見てるじゃないですか」
父様は新しいものが好きでそれが講じてか、突発的に財布の紐がすごく緩み結果的に母様に怒られることもよくある。
「リヴィ、お主のそういうとこはローニャにそっくり…だな」
「もちろんです。好奇心旺盛なのはあなたとそっくりですけどこういうとこは私譲り…嬉しいわ」
興奮している父様の声が下にも響いたのか、いつのまにかやってきた母様。
「とにかく、一緒に行こうリヴィ。お前にも何かしら学びがあるかもしれん。そういう訳で、お願いだローニャ今日のとこは行かせてくれないかい?」
「はぁ分かりました。でもその代わり今週は貴方が『かまど』の方に出て下さい。」
「あぁそのくらいならやってやるさ。行こうリヴィ」こんな風な流れ。
ルイルジェントから馬車で首都まで来ると最初に大きな門を抜ける。
抜けてからしばらくは首都を円で囲んだ都市「テミージョン」を通っていく。僕は首都近くになるまでグッスリ眠っていて、直前で起こされたから記憶はあまり定かではないが今いるオリジオとは全く雰囲気や町の印象が違っていた。
人の流れはあるけど全体として暗くて高い建物もあまりなくて不思議な感じ。
テミージョンと首都の境にはまた大きな門があり、そこを抜けるとようやく今いるオリジオに入ることができる。以前学院に調べものをしに来た行き帰りにもチラッとは見えたがちゃんと見たのは今日が初めてだ。
「おーい、リヴィー。行くぞー」「あ、すいません父様。行きましょうか」
来るときに見た風景に疑問を抱きながら父様の元に戻り、目的の店に向かう。
「なあリヴィ見えるか(指をさしながら)あれがこの国の中枢「政法院」と「術衛省」。でその後ろに見える小ぶりな城郭が「クリーズオリン宮」だ。あの城に住んでるのは昔からこの国に住んでいた貴族やそれに近い人とされてる」
「なるほどぉ、父様は入ったことあるのですか?」
「一回だけ工芸品の品評会が行われた時にお邪魔した。」
「へー。僕もいつか入ってみたいです」
昔からの貴族やそれに準ずる人か、聞いただけでもかなり癖の強い人が多そうだ。それにしてもさっきからちょこちょこと魔術具を身に着けた衛士の姿が目に入る。
町に入る時もかなり厳重な警備が敷かれていたようだがなぜこんなに巡回しているのだろう。
要人でも来ているのか?それならば外出禁止令のようなものが出ていそうだし、重要な物品の輸送などならそもそも人ごみの少ないルートを使うはず。
店に向かって歩く中、一つの露店で揉め事が起きた。
「おいお前、見たところ魔法は使えなそうだし金もないみたいだがランクはどっちだ?」「え…あの……」「おい答えろ!」「ミ…ミアスです」
丈の長い黒っぽい服を着た男が詰め寄られ、ランクを答える。
すると次の瞬間店主はその男を魔法で押し飛ばす。
「ミアスのくせにうちの品に触るんじゃねえよ。(舌打ち)」
「おいそこの若い店主さんやめないか、商売にランクは関係ないだろう?」
魔法種の扱いに寛容なのだろうか、隣の露店から店主と思われるおじさんが若い商いに声をかける。
「うるさいな!魔法種は魔法種。ミアスは所詮ミアスだ。」
ムキになって豪語する若い店主。
魔法の音を聞きつけたのかすぐさま衛士がやってきて若い店主は聴取を受け始めた。年老いた隣の店主は飛ばされた男の介抱と手当てを。やはり、パルおじさんのような人は世の中に沢山いてあまり大きく見えてこないだけなんだという事が分かる。
「リヴィ、入るぞ」「はい、今行きます」
今日の目的であるお店に着き、扉を開けると奥に一人の女性が立っていた。
「ようこそおいで下さいました。さあさあ上へどうぞ」「あぁ、失礼するよ。」
父様とあの店主と思しき女性は仲が長いのだろうか。
階段を上がり、リビングのような部屋に入る。
なんともお洒落なテーブルや椅子が置かれ、卓上には茶が用意されていたので席に座り一口頂く。ここまでに溜まった疑問もほんのちょっと店主さんに聞いてみよう。
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