第18話
椅子に座ってお茶を一口飲んだ後、ゆっくりと周りを見回す。父様が言っていた今日の目的地であるお店、その二階部分だ。普段父様の取引相手として我が家にも時々商いをしている人がいらっしゃるが全体的に筋肉質な人。性別で言えば男性の商人さんがほとんど。
相手方のお店にも出向いたことが何回かあるがどこも油のにおいや機械の音が響き、いかにも工芸・技巧商人がやっていそうな構えの所ばかりだ。しかしこのお店は、入ってから中を見て二階に来るまでとても風情があって良い雰囲気のお店という印象。
「父様、あの女性の店主さんやこのお店とは仲良しなのですか?」
「まあな。この首都の中だけでもあと数か所良い店は知っているのだがその中でもここが総合的に一番だ。あと普通に彼女が優しい。」
なるほど。
父様はあの女性の店主さんの人柄と仕入れや個々の質でここをメインに利用しているという訳か。程なくして店主が二階にあがってきた。
「この度はようこそ当店へ来てくださいましたね。お茶も飲まれましたか?お口に合えばよいのですが」
「はい、おいしく頂きました」
「それはなにより。私の名前はベルネ・モレット。このお店で魔工具の販売や鉱石の売買などをしております。」
一つ一つの仕草がとても丁寧で真面目そうな人だ。
「はっは…はじめまして、リオルヴィレヴィントンといいます。」
初対面の人との掴みは何回経ても全然慣れないが、いつも通りご挨拶。
「ベレット、この子の事覚えていないかい?」
父様のこの言い方だと、僕は以前にもこの人に会っていることになるけど僕の中では初対面。どういうことだろうか、僕の思い違いだろうかとも思い必死に記憶をめくるが中々出てこない。ちょっとの間悩む。
「まあ、あの時の坊っちゃんでしたか。これはこれは失礼しました。いやすごく立派になられてるもので気づきませんでした(汗)」
「リヴィさんは覚えてなくても無理ないですね。(自分の腰に手を当てながら)まだこのくらいの小さい時にお会いしただけですから」
どうやら僕はこの人と小さい時に会っている。
そのあと少し聞いてみると父様がこのお店の新装祝い時に連れられてきて、僕はベレットさんにすごくデレていたらしい。
「あっ忘れるところでした。こちらが先日お伝えした鉱石と魔工具になります。」
焦った様子で木箱とガラスに覆われたケースを持ってきたベレット。
「この魔工具は最近できたばかりの希少な代物。一見すると銃身の長いだけの普通の銃。しかし本当は装備者の周囲2mほどと着弾地点の周囲を使った人の魔法体質、特に液流や地形操作系の方ですとその方の性質に合わせて変化させることも」
「ただ耐用魔力供給量とかのデータが少なく、店頭に出すには少し厄介ですが採掘とかにも十分使える物だと――発破とか採掘自体とか」
「ほうほう、中々使い甲斐のある道具だな。私がこれの試用者としてデータを取ればいいのかい?」
一応「データがない」と言う節に若干怖さを感じつつも好奇心はいつもと変わらず魔工具の色々な部品を触っている父様。
一瞬会話が静まったので次は僕の番。
「ベレットさん、さっき街を歩いているとそこかしこに衛士が立っていたり巡回していたのですが何かあったんですか?」
これは僕の中で溜まっていた疑問の一つ。
「あー実は最近この首都を中心に急に消息を絶ったりいなくなったりすることが頻発してるの。」
「それは…魔法種だけですか?」
「いえ、ユーノスもミアスも両方。なんせ気味が悪いから私達市民が国にお願いして衛士を配備してもらったの。でもその衛士や議員の方も一部で消えた人いるって話」
ベレットさんの話を聞くに、つまりは謎の連続失踪事件がこの首都で起きていて衛士を配備したけどその人たちや貴族議員までも消息を絶つ人が出はじめた。それで躍起になった国が三度目の正直みたくガチガチの警備体制を組んでいるということ。
しかしどういうことだろう、こういう時によく狙われるのはユーノスであって関係ない議員さん達や軍属の衛士までもが消えている。
考えるほど謎は深まるがこういう時は喉を潤し菓子を食うのが一番だ。
「このお皿に置いてあるお菓子どれも美味しいですね。」
「あら、ありがとう。これは近所の製菓業の人が『余ったからやるよ』って言われて貰った物。(苦笑い)」
彼女の顔を見るにその製菓の人はあまり作るのが上手ではなかったりするのかも。
「ベレット、こっちの鉱石はしばらく置いといてくれ。後日私か同僚の者どちらかのみで来るよ」
「はい、わかりました。」
ちょっとの間、談笑の時間が過ぎていく。
次の瞬間、下から窓が割られ何かを投げ込まれた音がした。
僕らはすぐさま階段を降り一階に着くと窓はバキバキでショーケースも一部破損し奥にある奴は散々な有様。扉を出て外を見るとこれの犯人だろうか逃げていく後ろ姿が見えた。
「待て!!…ベレットさんそれ借りるね!」
「うわっまあまあ重いな」
ベレットさんの持っていた銃型の魔工具を手に僕は犯人を追う。
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