第16話
獣たちとの攻勢は依然変わらない。僕とロイドは長い時間術を使い過ぎたことによる体力の消耗、後ろには班仲間のデグとルミーゼそれにゴッツの三人を匿っている状況。しかし獣たちは鉢合わせしてしまった時と変わらずガルルとうなり、突進を交えながらも獲物を見る目でこちらを睨む。
しかも元は六匹だったのに、ゴッツが連れてきたお土産のせいで今は10匹まで増えてしまっている。(もとはと言えばロイドが石を蹴ったせいなのに)と心で愚痴をこぼしながらも僕は剣技の構えは崩さない。
「リヴィ、まだいけるか?」「いや、厳しそうだ。」
僕らは両方ともそう長くは持たない。
前にもらったグローブのおかげで一回当たりの術にむやみやたらと大量の魔力を消費することが少なく、お陰もあってここまで保てている。
短剣に関しても連続で魔法の触媒として使っても大丈夫なことは今回の事で実証できた。しかし今現在、それらにもガタが来て劣勢には変わりない。
ふとした瞬間、急にこちらに照明が向けられた。
「そこから動かないで!」
逆光であまり見えないが銃のようなモノを構えた女性がこちらに叫ぶ。
一瞬、女性の腕辺りが光った。
「皆…伏せて!」咄嗟に僕は声をかけ姿勢を低くする。
光の弾丸が獣に次々と当たり、命中した後獣を囲むように大きなキューブが形成され中で小さな爆発が起こる。その後、獣たちはキューブの中で倒れた。少しして、撃った女性含め年上と思われる数名が降りてくる。
「大丈夫だった?」一人の女性が声をかけてきた。
「はっはい。」一応助けてもらったこともあり礼を返す僕。
そんなことより、僕は彼女らが身に着けている戦闘服が気になって仕方ない。
金属にも布にも見える不思議な質感の素材が全面に使われ、肩や足回りには魔力供給の回路だろうか常に色を変えていく細い管のようなモノも見受けられる。
「この服が気になる?君」「はい、すいませんじろじろと」
「いいのよ。これは私の国で作られた最新の装備」
「そうなんですか。かっこいいです」お姉さんは丁寧に答えてくれた。
「送るわ、君たちどうせ野外実習でしょ」早くもバレていた。
まあこの時期に森を使う初等科生なんて実習参加以外居ないからだろう。
「おい、行くぞ」
この編成部隊の隊長さんだろうか、その合図を聞きお姉さんはすぐに動き出した。
部隊の人達に先導してもらいながらキャンプ地へ戻る。
聞いたところによると、あの獣たちは最近活発化し人をよく襲うのだそうで原因は分かってないらしい。
歩いている途中、遠くの方にツタが生え色も褪せてしまっている大きな遺構のようなものがちょうど視界に入った。
探索キットの中から双眼鏡を取り出し、遺構の方に向ける。かなり距離があるせいで中々しっかりとは見えないが、扉の元にはスイッチのような押せそうな抜きが数個。
窓があったのだろう所からは何やら見慣れない、浮かんでいるように見える板や気味悪い色の光を発している管。
「どうした、リヴィ。早くいくぞ」「あ、うん」
僕は小走りにロイドの元へ。あれはいったい何だったのだろう。
そのあと部隊の人達にキャンプ地まで送ってもらった。
「ゴッツはデグとよく話してから寝るのよ。ロイドくん…あぁ」
デグとゴッツの仲直りの機会にもなるためか、二人での時間を促すルミーゼ。
ロイドにも何か言いたかったのだろうが、すでに彼は夢の世界にいるようだ。
「ルミーゼ、君こそよく休んでよ?怖い思いさせてごめんね」
今回の一連の騒乱は僕やロイドのせいでもある。
「怖かったけど…ありがとね」
怒っても無理はないし怒って当然のケースだが冷静に返すルミーゼ。
一体この人はどこまで大人なのだ。まあそんなこんなで疲れもたまり足はまさしくと化していたためそれぞれテントに入り眠りについた。
翌朝、目が覚めると目の前には熟睡中のロイド。そっと起こさないようにテントの外に出る。朝の森は涼しい、むしろ寒いくらいだ。
しかし日が昇り白く薄い霧が目立ちながらも空気が澄み、段々晴れてくるその景色はまさに自然の賜物。これまで僕は自然や森と言う場所を食わず嫌いのようにしていたが、今回のハチャメチャ実習でそんな印象もがらりと変わった。
「おはよ、リヴィ君」景観に見惚れている中デグが起きてきた。
「ゴッツとは上手くいけたかい?」「あ…うん。まあね」
デグの様子を見るに完全に仲直りできたわけではないらしいが、時間が解決してくれるだろう。その後ゴッツやロイド、ルミーゼも起き始めそれと並行して片付け。
ルミーゼに関しては昨日の行動が気になる。
この前の試験の時、彼女は「まあまあ」と言っていたから多少は術を使えるはずなのに一向に使わなかった。確かに怖かったのはあるのだろうけれどそれにしても謎だ。彼女はどんな魔法を使うのかもまだ知らない。
しばらくして装備を身に着け用具一式を整え、集合場所に指定されている最初の拠点へ移動した。一応すべての班が無事に行動を終えたようだがゴッツのように迷子になり班から離れた者もいる。
「リヴィくーんおつかれさまー」
周りを気にしていた僕のところへロイナがやってきた。
「やあロイナ、楽しめたかい?」「まあねえ、それなりに楽しかったよ。」
「それは何よりです。あとちょっとで解散だから一緒に帰ろ」「いいよ」
久々のロイナとの会話、やはり幼馴染との会話ほど安心感ある空気はないだろう。
程なく先生の話が始まった。
「諸君、ご苦労だった。何人か迷子や離脱者が出たことは少し遺憾ではあるが無事で何より。帰路も十二分に気を付けよ。以上だ」
珍しく短めに話が済んだこともあり、A班のみんなと一緒にロイナと合流し思っていた早めに帰ることができた。
ふぅ、楽しかった。
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