第14話

 先生の話もひとしきり終わり、各班が行動を始める。

さっきからランクや体力の事でいがみあっている他の班は果たして明日の朝、またここで無事に顔をあわせることが出来るのだろうか。

しかしこの点に関して言えば、僕らのA班だって他人事ではないから十分に気を付けていかないと特大サイズのブーメランが心中に刺さることだってあり得なくはない。


 「おいリヴィ、行こうぜ!」周りを見ながら困惑ぎみの僕にロイドが声をかける。「そうだね、行こうか」それに呼応して僕らも活動を始めた。

月はもう十月、陽が落ちるのも四月五月に比べれば断然早い。まずは今日宿場を設営する場所を決めたい。

「デグー、そこにある地図を取ってくれないか」

「……あっうん…わかった」

こちらに反応し地図を渡してくれたが、デグの目線はずっとゴッツの方に向いている。デグを呼び寄せ地図を広げて作戦会議。このルイゼナの森は未踏の地が数多くあるとされるほど広く、今回野外活動で行ける最遠までの範囲も決められている。

ずっと止まっているのもアレなので歩いて採集をしながら決めていくことにした。


「なあルミーゼ、お前朝弱いのによく今日時間より早くこれたな。感心したぜ」

ロイドがつぶやく

「うるさいわね、私だって起きるときは起きるしやるときはやるんです!」

ふてくされたルミーゼがツンツンした様子で答える。

「デグもさ、暗い顔ばっかしてないで少しは前向こうぜ。」

他意無しにどんな時でも励ますことを忘れないこういうロイドは大好きだ。

「うぅ、でもゴッツは僕といる時よりも今の方が楽しそうだし…僕といて楽しかったのかなって」

デグは今までのゴッツとの日常とここ数日の異日常のギャップがどうしても受け止め切れていないようだ。


少しして僕と隣同士で歩いていたデグの目に心なしか光が見える。

それは瞳の輝きなどではなかった。

「デグどうしたんだいそんなぽろぽろ雫を落として」

デグの背中をさすりながら僕は一緒に歩く。

「ルミーゼ、手拭いあるかい?僕も普段は持ってるんだがリュックの底にあってすぐには出せない」

「はいはい、ていうかそこ変わるわ。リヴィ君はロイドと前を警戒してて」

デグの様子を見たルミーゼと列を交代し腰のホルダーから一昨日先生からもらった短い魔の剣を出し、握りしめる。

「なあリヴィ。デグのやつ、絶対ゴッツから嫌がらせされてるだろ試験の件とかで」珍しく察しがいいロイド

「あぁ、多分そうだろう。いつも元気なデグがここまで、余程言われたんだろうな」


僕とロイド、いやルミーゼも恐らくこの見当はついているんだろう。しかし本人に聞くまでは推察でしかないから鵜呑みはやめておこう。


「拠点を出てから三十分は歩いたな、地図ではこの辺に良い感じの場所があるとなっている」この後の活動も考えて早めに設営はしておきたい。

「……おい、止まれ。」何かを察知したのかロイドが注意を促す。

「リヴィ、その空き地はこの先だ。しかしただではいけないようだ」

目線の先には空き地が少しばかり見えるが、同時にその方向から獣の声も聞こえる。「ロイド、二人で行こう。デグとルミーゼはここに隠れてて」

荷物を地面に置き、二人を留めて静かに僕はロイドと進む。

茂みの中から空き地を見ると獣が四匹ほどで、そこまで大型ではないためすぐに追い払えそうだが牙は明らか肉食の証を示している。

注意深く見ているとロイドが鼻のあたりを掻き始め、次の瞬間あろうことかくしゃみをしたロイド。当然ながら獣の意思はこちらに向き、二対四のアンフェアな戦いの火ぶたがなぜか落とされた。


 「仕方ない…出るよロイド」

「…すまん。しかし加勢はする」

ガルルとうなりながら獣がこちらを凝視。

(しかしどうしたものか。こうも無勢では危険)と思いながらも僕とロイドは剣を手に。時より獣がこちらに突進してくるも何とかよけら背をつける。

しばし静寂の時が流れ、この先の思案に煮詰まった頃

「魔具‥火炎ハァァ!」剣に炎を纏わせそれを獣めがけ飛ばしたロイド。

僕も近くの地面に溜まっていた水を少量引き寄せ

「魔具、氷旋矢。テェェェ!」

剣を凍らせ、その刃の周りに多少なりとも氷の蔓を張りめぐらせ力いっぱい僕も飛ばす。どちらも獣をかすめ、それにびっくりしたのか四匹とも逃げていった。


修羅場が過ぎ去り一安心。デグとルミーゼを呼び寄せ、野営の準備。

「ルミーゼ、防護の術この野営地に軽いのかけといてくれよ」

ルミーゼに結界の類を頼むロイド

「わかったわ、先生から借りた防護魔法セルを設置しとくね」

すぐさま設置し、行使するルミーゼ。

「防護魔法セル」と言うのは試験などでも使われていた防護の魔法を込め、即座に極々狭い結界を張れるよう設計された小型ガジェットの事。

「デグ―こっち手伝って」「あ、うん。わかった」

雫を出しスッキリしたのかデグはちょっとずつ元のデグに近づき。


野営地の設営と言うのは意外に時間のかかるもので、気づけば初めてから壱時間半ほど経過。移動の中で得た多少の資源と食材をテントに集め、設営もひと段落したので夕食の準備と周囲警戒・探索の二手に分かれて行動を始めた。


森と言う場所が牙をむくのは、闇夜の時間だ。

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