第13話

 「よぉぉし、ルイゼナの森野外実習を始めるぞ。今回の実習の指導と管理を担当するマルデアだ生徒諸君よろしく頼む。」

 胴は細いが力はありそうで所々に刺繍が所々に施された軍服にも似た服を着た男の一声からその日は始まった。


「私の背側、そして君たちから見ると正面にある背の高い木々が生い茂る森。これが『ルイゼナの森』だ。」その男は(この森の事なら何でも知っているぞ)と言わんばかりの顔で話を続けていく。


当然僕もこの森についてはほんの少しの知識しかないため、目を若干は輝かせてはいるが所詮は定型文。そんな話より周りとの会話の方に意識を向けている僕。段々と今いる最初の集合地点にも級友が集まり個々と軽く会釈や挨拶を交わしているとデグがやってきた。


その方に視線を向けるとデグは普段仲良しのゴッツの方へ向かった。ゴッツはゴッツで最近よくつるんでいる数名と楽しそうに話をしている。

「おはようゴッツ」笑顔でデグは話しかけたようだが、当のゴッツはデグが来たことが気に食わなかったのか元々話していた数人と固まりその場を離れた。しょんぼりとした顔でデグは僕らのA班の列へ。


 「おはようデグ」常と変わらず僕が挨拶しても今日のデグは一段と静か。


昨日の様子と現状から見て二人の間に何かあったことに違いはない。しかし今回の活動で求められるのはチームワークそれに宿泊行事でもあるので夜になり落ち着いたら何があったのかを聞いてみることにしよう。


 メンバーも集まり時間も頃合い

「このルイゼナの森の中は今回の実習で使うエリア以外ほとんどが手つかずの状態。それに加え複数の種の獣がいることも確認されているので十二分に注意するように」

さっきとは打って変わって真剣な顔でマルデア先生が話す


「獣がなんだ森がなんだ。余裕でこなしてやるよ」

先生の話も終わり複数の大人の先導の元、動き出した列の中でロイドが生意気に話す。風が時々吹き木々や地面の木の葉が揺れ動く中、僕らは足を進める。


「ねえリヴィ君、今回の実習は結構動き回るけど大丈夫なの?…その…体力面とかさ」筋も全くついておらずか細い足を見ながら聞いてくる。


「あぁ大丈夫さ。こう見えてもトレーニングを積んできたからね」

 僕は心配を払拭しようと(虚言の)日頃の裏側を伝え返す。

「そうなんだ…ちなみにどんなトレーニングなの?私も朝苦手なの克服したいし……役立ちそうだからこっそり教えてよ」

ルミーゼは首をかしげながら視線をよこして尋ねてきた。

「えっとねぇ…またこの後班ごとに分かれたら教えるよ…いいでしょ?」僕は急場しのぎに答えた。

「ふーん分かった」

ルミーゼから特段の変化球なくその場をしのげたことに一安心。


僕とルミーゼは隣同士で歩き、前にはロイドとデグ隣同士で並び歩いている。だが、なんだろうこの違い。右側のデグはすごく静かなのに対し、左のロイドは周りの草木や木々の間に視線を向けながら歩みを進め(どっからでもかかってこい)という強気のオーラさえ感じる。

(なるほどこれが陽と陰か)。


「ロイド…そんなにテンション今から上げてたら夜とか持たないぞぉ」

張り切っている彼に言ってみる

「なんだよリヴィ、さっき先生が『手つかずの場所です』って言ってたのを聞いてからワクワクがすげえんだよ。いつどんな時でも相対せないとな」

若干後ろ歩きをしながらキラッキラした目でこちらに話す。

「それはそうだけど……あっうしろ!」

「ロイド君!」「ロイドさん!」

「ん?なんだ…あっ」ロイドは僕と二人の注意を聞いてすぐ前を向く。

 心もとない細さの木板でかけられた小さい橋、そこにロイドは足をひっかけてしまった。幸い両側に貼られたロープによりかかり転落は防げた。


「あっっぶねぇ、助かったぜリヴィ」

一瞬本気でビビったのかロイドの顔には冷や汗が見える

「ロイド君はこういうとこあるからねぇ」

相変わらず大人な対応のルミーゼ。

「大丈夫ですかロイドさん」

「ロイド、気分上げるのも大概にしとけよ?」

デグと僕は当人と同じく一瞬肝を冷やし、大事ないことに安堵。

橋を渡りきると

「ほら三人とも、拠点すぐそこだよ」

ルミーゼが奥に見える少し開けた場所へ指をさす。そこから程なくして今日の実習で使う拠点域に着いた。

荷物を一旦おろし野営用具と軽装の一式が置かれたシートへ向かい確認を進める。その中で周りの班を見てみると昨日と変わらず、ランクやその他で難癖をつけて仲が決裂しかけているチームがなんと多いことか。


 しばらくして集合の合図。先生の元に集まり話を聞いていると、その背後に狼のような姿をした獣が獲物を見る目でこちらを凝視していた。

僕や周りの数名の視線もそちらに向き、それに気づいたのか先生が後ろを見る。次の瞬間先生がポケットから小さな針を取り出す。

針は緑の光を帯び始め姿を消した数秒後、獣は目をつぶりながら倒れた。


そのあと、先生と同じような服を着た数名が獣を布が張られた板に載せどこかに持っていった。気を取り直し先生の話は続く

「えー、諸君も見た通りここはそういう場所だ。奴らには昼夜や相手の歳など関係なく自分の腹が減っていれば容易にこちらを襲う。今の獣に関して眠らせただけなので後程還しておく。心配無用」


僕や周囲の多くは少し怖がっていたがロイドの目は一層闘志が燃え、ルミーゼは内心怖いのかもしれないが顔にはそう書かれていなかった。


「では、これから活動に移る。規則や用具に関して告知、その後は各班の行動時間だ。注意して聞け」先生の一言。


長い一泊二日の始まりだ。

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