第11話

 朝から試験があったため陽が高いうちは各々今までの鍛錬や研鑽の成果を発揮し、その試験も無事に終え時計の針はお昼を疾うに過ぎ本来なら午後の時限の最中であろう時間を指していた。しかし

「みんな疲れただろうし、お昼の時間にしようよ」なんて到底高らかに言える空気ではない。むしろ今何かを口に入れれば、味も感情もわからず全て悔しさやこの場にいることでの不安や不快感に覆われた「食感のある何か」としか感じ取れない。


ロイナをはじめクラスのある程度の者は自分の結果や成長に満足していてその子たちにとっては新たな向上心の芽生えの機会、また別の子たちにとっては精一杯の力を発揮したにも関わらず薄い結果の紙一枚に書かれた評価の伸びが見られずその一枚を握りしめ自暴の引き金的な機会。


 そんな負の勢いに引っ張られ結果を認め満足し向上の芽となった子の顔さえ本来とは正反対の表情となっている。実際僕自身、満足はしているし成長も見えたからとっても嬉しいけれど、この場の空気と周りからの刺さるように痛く感じる視線で今にもペシャっと潰し伸ばされてしまいそうだ。


しばらくすると試験官の服を来たワルゾ先生が教室に戻ってきた。教壇に試験官用の上着をかけ、少し身なりを整えこちらを向いて話し始める。

「ひとまず魔法種試験お疲れ様。個々それぞれこれまでの鍛錬の成果を発揮できた時間だったことだと思う。」そんな先生の一言に対し小声で

「何が研鑽の成果だよ、クッソ」と前に座っていた眼鏡をかけた一人の男子がぼやく。そのまま先生の話は続く


「いいでしょうか。今皆さんが手元に持つ紙、それが今のあなた方の成果なのです。

不平不満は無条件で生まれるでしょうがすべては君たち次第」

「先生、一ついいですか」と一人の生徒が腰を上げた。

「まあいいでしょう。なんですか」と先生は返す。

「この試験結果には納得のできかねない点があります。もちろん今回のテストは再試が無いことも知っています。」続けて「何故初等科入学時のミアスユーノス判定でクラス分けをせず約10年引っ張ってここでもう一度差を見せるのですか」とその男子生徒は疑問を投げた。


「それは簡単な話です。ミアスとユーノスの差は本人の成長に応じて一定程度は詰まっていくことは知っているでしょう。そのため君が考えているような大きな能力順位でのクラス分けをしても途中でそれを覆す者が少なからず出てくる。」

「10年という月日の中で能力差のある者同士が日常を共にし、その影響を受けることで人数的にも能力的にもどれほど成長するのか。その結果を見るのがこの試験。」

「もちろん今回測った結果がこの先ずっと続くとは限らず、学院などの中で成長を見せランクを上げる者もいるのだろう。」「だからこの試験は通過点程度に思っておくのが丁度いい。」と

いつもに無いほど真剣で少し冷たさも感じる口調と表情でワルゾ先生は答えた。


質問を投げた男子生徒は言い返そうとする姿勢を見せたが、少し不満そうに座った。


 ここで言い返しても先生には敵わないと思ったのか、はたまた違うのかはわからないが賢明といえる対応だと僕は思った。

「ほかに質問のある者はいるか?…居るなら今の間に済ませてくれると助かるが」と先生は顔を左右に向ける。ついさっきまで先生が来たら文句を言う気満々だった奴も少し委縮し、反対に抑えていた生徒はイライラなのかムカつきなのかもしくはその両方なのかとにかく色々な感情と気持ちが渦巻いている様子。


そんな状況よそめに教室を出て下の階に降りて行った先生。程なく転移魔法を使ったのか僕を含め、クラスメイト全員の机の上に金属製の箱が現れた。

いきなりの事でみんなが騒然としている中、先生が

「試験を終えた皆さんへの報酬…いえ、プレゼントです。蓋を開けてみてください。」とさっきとは打って変わって笑みを見せながら言った。

まさか最終課題、いやアの顔ならノルマ系ではないはず、いやぁ。


 と色々な予想が浮かんだが少し持ってみたところ意外に軽かった。とりあえずずっしりとした課題の山でないことに安堵して僕は恐る恐る箱を開けた。

中に入っていたのは掌から肘まですっぽりと入りそうな装具、それを囲むように詰められている緩衝材代わりの木片。


「それは『ミュアグローブ』と言って魔法や魔工の発動や使用時に安定して発揮できるよう魔力維持や術技を助けてくれる簡単な魔工具だ。試験を終えたらこれを送るのが慣例のため渡した。くれぐれも外れた使い方はしないように。」と

少し嬉しそうに話す先生。


僕はいてもたってもいられず、すぐさま腕に取り付けてみた。

使われている素材が軽めの物が多いのかそこまで重さも感じず、見た目もシンプルではあるが結構カッコイイ。装着感を試しながら周りを見回す。色々な姿勢で構え、もしもを考えて術技発動のイメトレをしながら自分に酔い気味のロイド。


 ルミーゼやロイナなどの女性には腕を覆う物タイプではなく手首から掌までを軽く覆うタイプの物が渡される。段々とみんなの活気が静まってきた頃

「では次の時間は間もなく予定されている野営を含めた学外の臨地実習について決めることとする」「なお本実習においての班編成はミアスユーノスを混ぜ交ぜとした混合で編成し行動してもらう」と前置き無く言い放ったワルゾ先生。それを受け「ちょっと待ってくださいよ」

「さっきの意見本当に聞こえていたんですか先生!」と口々にぼやくクラスの仲間。


陽もだいぶ低くなり夕暮れが近づく中のことだった。

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