第10話

 試験開始の合図が鳴り響く。その音を皮切りに四方八方から魔法発動の音や命中音が聞こえ、静かで殺風景だった校庭はいつの間にか煙や多種多様な音が立ち込める混沌の空間へ様変わりした。まだしばらく時間のあった僕は待機場所から出て勉強がてら各魔法術の試験場を遠目から眺め、時より「おぉ」と感心と驚きを口に出しながら今か今かと自分の番を待っている。


すると待っていたコートの中から

「はい、ではロイドメガウェルさん。3番の位置についてください」と試験官がロイドを呼ぶ声が聞こえた。ロイドが終われば次は僕の番。

外にいても退屈なのには変わりないので僕はコート内に移動した。


 真剣な表情で自分の標的コースに立つロイド。掌を開き空の方へ向け振り上げ、腕の血管に沿うように赤い筋の光が通る。その腕を囲むように赤色に染まった矢が現れ、その次の瞬間大きく振りかざしたのと同時に火を纏った矢は腕を離れ標的に向かって推進音と共に一直線に進む。

程なく円形の標的には命中、しかし魔力調整がうまくいかなかったのか勢い余って標的を貫き裏の防護魔法が張られた結界に当たり矢は消えた。


その様子を見て

「ロイド君、君の魔法は攻撃に有用だし標的命中の位置を見てもセンスはいい方だと思う。しかし魔力調整は全然だね。今後もっと精進するように」と試験官はロイドにアドバイスを与えた。

「はい!ありがとうございます」と一言お礼を言ってコースを離れるロイド。

試験官は評価を記入しながら「はい、では次リオルヴィレヴィントンさんどうぞ」と交代を促す。


コースに入るとすれ違い際にロイドが「がんばれよ」と励ましをくれた。


 軽く頷き僕はコースに立つ。手の先に力を集中させるイメージを頭に浮かばせ、腕に下げていたボトルのふたを開けその口を的に向ける。

勢いをつけ拳をボトルに沿って横にずらす。すると氷の矢が中から飛び出し、程なく標的に当たった矢はジュルジュルと溶け出し的に残ったのは飛翔体の先端が開けた穴と濡れた後のみとなった。評価を記入しながらも


「中々順調に力を伸ばしているようで結構。ご苦労様」と試験官は僕に一言を。

それに対して「あ、はい。頑張ります」と一言返し僕はその試験場を後にした。


 そのあと、少し離れた場所にある仮設の部屋に向かい魔力供給量のテストを受ける。小型の魔工エンジンに自分の魔力をどの程度の時間安定して供給させられるかという内容だが、普段あまり体力に自信がない僕にとっては中々に厳しく、以前の試験でもあまりいい結果が出なかったことはうっすらと記憶にある。


試験官からの号令で計測が始まり、エンジンに触れ供給を始める。しかし段々と供給できる量が減り自分の体力も少しずつそがれていく。本当に供給系の魔法に長けた人がうらやましい限りだ。


 そこの試験もすぐに終わり、校舎内へ移動し最後のテスト項目へ向かう。そこは発動時間についての試験室。あらかじめ設置された障害物に術式を出来るだけ短時間でかけ、発動できるかというもの。僕の場合は簡単な温度と液流の操作なので室内だと難しい方ではある。結局その障害物に対しては温度操作を適応し凍る一歩手前まで術式をかけることができた。


無事に一連の試験も終わり試験官から最終評価の載った用紙を頂いた。僕はその紙をその場では見ずに一旦教室へ戻る。階段を上っていると

「おい、リヴィ。どうだったよ試験の結果は」と途中の踊り場にいたロイドが声をかけてきた。ロイドの言葉に

「うーん、手ごたえは結構あった方だと思う。けど満足ではないって感じかな」と僕は素直に感触を語る。


 それを聞き「そうか、リヴィでもそんなもんか。この勝負俺が勝つかもな」と自慢げに話すロイド。そんな風に話しながら教室に着く。

そこは喜びと悔しさ両方が入り混じる複雑な空間と化していた。

結果の紙、それ自体は薄いものだがそれを薄いとみるか厚いと見るかは人次第、でもここまでの10年頑張ってきたというその事実だけは決して裏返りはしない。


若干教室に入る気も失せる中

「リヴィ、試験の紙見てみたらどうよ。感触があっているか確かめようぜ」

とせかしてくるロイド。

「もう、君って人は」と僕は少し呆れも交じりながら話し、恐る恐る紙を開く。


 総合評価「ユーノス」、試験官からの一言

「今後さらなる応用と魔工師適正の向上が期待される」という2項目が目に飛び込み、そんな僕の視線なんてお構いなしに各試験評価のランクを見るロイド。

「惜しい、6項目中2項目は勝ったが筆記の方は負けたぁ」と残念がるロイドの声も耳には入ったが、僕はそんなロイドの声よりも初めて将来的戦術価値の項目に印が入ったことの方に意識を取られていた。


しばらく結果を熟読し、重苦しい雰囲気の教室に戻る。ロイナをはじめ一定数は結果が良好だったことを表すかのように活気があったが、その反対もしかりと存在する。相反する2つの感情と心が入り混じる状況は教室を見回しただけでも十二分に感じ取れる。


 そこでルミーゼが試験から戻り、僕は咄嗟に

「あ、ルミーゼ。手ごたえはどうだった?」と試験の印象を聞いた。

「まあまあ、かな。惜しかったんだけどねえ。」と試験結果を畳みながらルミーゼは言葉を返した。

「そうかぁ、残念だったね」と労いの言葉をかけ僕とロイドは席に戻る。


程なく時限を知らせる鐘が鳴った。その甲高くも重さのある鐘の音は、まるで今の教室と2つに割れたであろうクラスの分断を予感させるかのような響きだった。

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