第7話

 運動は得意かと聞かれれば胸を張って「得意だ、僕に任せておけ」と言えるほど僕自身上手くもなく秀でてもいない。動くのも好きじゃないし、時間があるなら体を動かすなんかよりも興味の糸に引っ張られそっちに向いている方が百倍好きだ。

そんな性分がゆえに僕自身体力は全くと言っていいほど無い、皆無だ。そんな僕だが、今はそんなことを気にする暇もなくとにかく駆けている。


初等学校で僕らの担任をしているワルゾ先生、普段は静かで授業もスラスラと詰まることなく進めていく普通に良い先生なのだ。しかし遅刻に対しては中々に厳しく、過去にも何度か朝の始業の鐘が鳴った後入ってきた生徒に対しては「特別課題」と称した成績やレポート課題などを用いた厳しいノルマを課している。


それらを目にしたからか一時期からクラス内生徒の遅刻はほぼゼロとなっている。


 そんなワルゾ先生によるクラスの掟と今に至る過程を思い出しながら僕は息を切らしながら走っていく。しばらくして学校の正門が見えてきた。段々と近づくにつれハッキリと見え始め、同時に多くの生徒が中に入っていく様子も視野に捉えた。


「よし、なんとか始業前に間に合いそうだ」と僕はむねを撫でおろし、いきなり止まっては体にも悪いので段々と駆け足だった足の一歩一歩を徐々に遅くしていく。

息を切らしながら立ち止まり、手で汗をぬぐう。すると後ろか

「リヴィ君」と声がして

咄嗟に「はっはい」と声が裏返りながらも後ろへ向いた。


「おはよう、リヴィ君。すごい汗かいているけれど大丈夫?」とそこにいたロイナが聞いてきた。「いや、ちょっと、人助けでね」と息を切らし話す。


すると「コミュニケーション苦手なリヴィ君が人助け?!」と驚いた表情で聞き返してきた。「なんだよー、困っていたから助太刀したまでだし。そんな驚くか」

「いやぁ、助人に入るのは分かるけどリヴィ君初対面の人だと固まるしあんまり話さないからびっくりしちゃって」

「……またこれも成長だね」とロイナは意外そうに笑顔で口にする。


それを聞き、僕の中で恥ずかしさと照れが混じる。「じゃあ、早くいこう」そう言って僕とロイナは教室へ向かった。


 部屋に入り席に着いてしばらくしてから始業の鐘が鳴り、時を同じくして先生も教壇についた。教壇の上にいくつかの資料を置き、一拍おいて

「今日は魔法種についてと、まもなく時期となる『国土一斉魔法種能力試験』に関するお話をします」と話し始めた。僕らはいつも通りまず教本を開き、今日のメインである魔法種について書かれた項を目次から探しそこへめくる。


以前の授業でも出た通り魔法種には今のところ格付けとして上位の「ユーノス」下位の「ミアス」のが存在する。今現在、ミアスと呼ばれている人たちは二つの層からのバッシングや差別の標的にされやすくなっている。魔法を全く使えない人々と、魔法が使えるという理由で攻撃する一部のユーノスだ。


「では、ミアスと呼ばれる人々は昔からこうだったのですか。ロイドさんどうぞ」と前触れもなく先生がロイドに質問。


少し慌てながらも「えっと、ユーノスやミアスって今呼ばれている人もすごく昔は『魔法使える人』っていう纏め方で同じ「ミアス」とだったけど偉い人たちが格付けを作ってから酷くなった」とあまり自信なさげの口ぶりでロイドは答えた。


「その通り、格付けを作ったことで試験などではわかりやすくなりましたが良いことばかりでもないのです。まあ政府はこの先もっと詳細なランク付けを施行しようと考えているようですが」と補足しながらも先生は満足そうだった。


 そのまま教本に沿って先生の話は続く。僕らの国では政府にも多少魔法種を採用しているが、それを見てか中央議会では「魔工を使い発展を推し進めよう」という派閥と「魔工などに頼らず実技経験に基づく発展こそ正義」と言う派閥の二大派閥ができ始めている。


そういった流れのまま一限は魔工を取り巻く状況についての授業で終わった。


 次の一限に入ると話題は変わり魔法種試験についての話が始まった。

「皆さん、もうすぐ魔法種試験がやってきます。魔工学院に入る前に自分の今の知識と実力を存分に発揮してください」と大きくも威厳を感じそうな声で話す先生。

こちらもこちらで気が引き締まる。


僕もそうだが、周りの顔をみても皆ワクワクしているように見える。先生の話を聞きながら、以前に書き留めたノートを出し僕はおさらいを始めることに。

その中、ルミーゼが先生から指名を受け


「魔の才は先天的に持つ人も僅かながらいますが、ほとんどの人は後天性、発現したときはミアスでも学校で強化成長の科目が設定されている為努力でのランクアップも可能です」と答えた。


そう、経験則で上がることもあれば最初から高位に当たる力を持つ人もいる。ただ、個人によって上がれる最大値は決まっていることがほとんどだ。周りのみんながワクワクしているのは自分の伸びがいかほどであるかを見られる怖いもの見たさゆえの表情だろう。そうこうしているとあっという間に時間は過ぎ二限終業の鐘が鳴った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る