第6話

 おじさんと一緒に荷車を引きながら歩く。荷口側に回り込み布仕切りの隙間から中をみると大小さまざまな品物があった。高価なモノでも入っているのかいくつかの箱には作業者に注意して扱うよう促すテープのようなものが貼ってある。目の届かないところに置いておくのも危なそうだ。僕は両手がふさがっているおじさんに代わり家の門を開け、玄関のすぐそばに荷車を置いておくことにした。


 車を停め玄関を開けて、僕はおじさんを中に入れる。すると玄関の音が聞こえたのかお手伝いのセナが二階から降りてくる。


「帰りが遅いので心配していました。ご無事で何よりです…。ところで、そちらのお方は……?」僕はここまでの事情を説明し、かなり疲れている様子や服も多少汚れていたことから別の服を用意し僕の自室で休ませることにした。


「じゃあ今日のところはあのベッドを使ってください。僕はソファで構いませんので」といつも自分がつかっているベッドを指す。


「いやいやそこまでしてもらわなくとも」と謙虚さなのだろうか中々妥協を見せないおじさん。結局、おじさんはそのままベッドで休み僕はソファながらやっと眠りにつけた。


 翌朝、僕はいつもより早めに起床し部屋を出て、自分の部屋の本棚から周辺の国やその文化に関する本を漁っていると、「あ、おはようございます。昨晩はどうも」とまだ多勢の眠気に押し負けていそうな顔でおじさんが話しかけてきた。


「おはようございます」と僕は返す。


まだ朝食まで時間があったのでいくつか本を手元に置きながら昨晩の様子、出来事を頭で整頓しまずは出自を聞くことに。昨日勢いで助けたものの、いざ時間が経ち二人となるとどう聞き始めたらいいのか。

強めに、いやそこは軽くご近所さんくらいで聞くか、いやそうなると馴れ馴れしさ全開で不快に思わせるだけ。しかし柔らかく聞かないと相手も答えにくいだろうし。いくつもの初対面コミュニケーションの不安が頭をよぎり、実際僕は頭を抱えた。


 そんな風にして考え込んでいると

「あの、何か聞きたいことあれば聞いてもらっていいですよ。そんな悩まず」と僕の様子を察してかおじさんが聞いてきた。僕はちょびちょびと質問を始める。


まず、おじさんの名前はパル・デジックと言い自分が住んでいる南方の国「スウェンゼール」を拠点に魔工部品の商いをしているそう。


「おじさんは、その、魔法使えたりするの?」と聞きよる僕。

おじさんは「ええ、まあ。」と言って少し手に力を込め、小さい火玉(ひだま)を掌に浮かべた。矢じり型にも変えて見せ、程なく消えた。

「ですが、所詮は私もミアスです」とあきらめ顔でつぶやく。


ユーノスとミアスと言う格はもはやただの格付け名などでなく、偏見と差別の目の対象にもなりつつある。昨晩対峙した集団、あれはここ最近増えてきた悪質な一味だ。「自警団」を自称しながら「ユーノス」なのをいいことに街に入ってきてミアスの人々を度々襲う。このおじさんもミアスではあるが、術の形態的にちゃんと鍛えれば戦闘士の適正と価値を持ちそうではある。魔法種や魔工職は一般に比べれば待遇も良く、それを引き金に一般人とせめぎ合いになった事例も多々ある。


魔工学院はそれらから魔法種を保護し研鑽に専念させる壁役も果たす。ただ現状は魔工職が国や生活を支える重職になってきている為、以前ほどの大規模な乱闘や個々のブーイングの類は減った。


 おじさんから話を聞く中、僕はこんなことを思い考えていた。話もひと段落した頃、「準備が出来ましたので下へどうぞ」とセナが呼びに来てくれた。

おじさんと僕は腰を上げ部屋を出てダイニングに降りる。部屋に入ると先に父様母様が席についていた。セナが事情を説明してくれていたらしく、両親とも軽くおじさんに挨拶。僕らも席に着き食べ始めた。


 いつもながらセナや母様が作る品はどれも美味い。僕を含めた家族三人、そしておじさんとの話は程々に華が咲いた。四五十分ほど経ち片づけ始める。


「いやいや、もうこんな時間」とおじさんは時計を見ながら焦り気味に玄関に走り、支度を始める。少しの時間が過ぎ


「いや、今日はお世話になりました。おかげで久しぶりにしっかりと休めました」とおじさんはお礼を言った。

「いえいえ」と返す僕。

荷台を門の外まで押した後、「では。先を急ぎますので失礼します。」と一言言っておじさんと荷車は動きだし段々と遠くなっていった。


 ひとまず安心と若干の寂しさが僕の心の一部を染める。

「ところでリヴィ、今日は学校で何か重要な案内があるのではなかったかな」と父様が聞いてきた。僕はそれを聞き

「あ、今日は魔法種試験の案内と魔工科目の授業がありましたね」と言った後すぐ「急がなきゃ」と青ざめた顔で 部屋に戻りカバンを取って学校に急いだ。

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