第5話
|ユーノス、それは魔法を使える才を持った者のこと。ミアス、それは魔法の才を持たないかそれに近いほどの微弱な力もしくは術技しか持たない者のこと。この国では「魔工」の発明当初、魔法を使える者の数が少なく「ユミア」という一つの種族出身の人しか使えないのだろうという認識が一般だったらしい。
ユミア種族と言うのはこの国だけでなく、周辺国でも確認されている民族の名称。
実に武の才に長けていて、大昔は大きな戦や少数精鋭部隊を投入した秘匿の作戦などの際にはユミアの人々だけの部隊が編成されそれはもう素晴らしい戦果を残したそうだ。話は戻るが、発明と実用が進んでくるとユミア以外の人々も採用しはじめ同時に魔の才はユミア限定のモノではないことも分かってきた。
その後しばらくの時間がたってから国は魔工師と戦闘士という職を作り、魔法を使える人の中に上位「ユーノス」と下位「ミアス」というランクを付け今に至る。僕はそんな頭の片隅にピン止めしてあった学びの記憶を心で読み起こしていく。
目の前にいるのは槍や剣型の魔法具の矛先をこちらに向け、真ん中にいる組頭らしき女性を囲む明らかに良い人ではない臨戦姿勢を取ったローブをまとう男女5名ほど。そしてその悪そうな数人に飛ばされたのか少し離れて少し怪我している様子の男一人。ここはどう動くべきだろうか、と少し策謀に入り始めた。
それと時を同じくしてローブの一人の男の手先に光った筋が目に留まる。
「危ない、おじさん」と口から叫び気味の音が出た時にはもう僕の足は駆けていた。咄嗟にカバンを片手で投げ、相手のヘイトがカバンに向いた隙におじさんの方へ滑り込む。その中、投げたカバンと撃ってきた直進弾丸系の魔法が当たり「バシューン」と言うような軽い推進と爆発音とともにカバンらしきものが地面に落ちた。
僕はそれが多少視界に入ったのを確認しつつ立ち上がり
「なんなのですかあなた達!街中で魔法を乱用して」と僕の内に浮かぶ怒りの波を
ぶつけるように言い放つ。僕の後ろのおじさんは少しビクッとしながらも
「いいですから」と弱弱しい声でつぶやく。
程なくローブの五人組の長らしき女が
「私らは誇りあるユーノス、そこのじいさんが持っていた積み荷の中に大層お金になりそうな品があってねぇ」と意気よく話し出す。
「しかも聞いたらそのじじいミアスだっていうじゃないか」
「ミアスのくせに反抗して、仲間も怪我した。そのじじいのせいでうちらのプライドと面子は丸潰れさ。だからそいつには目いっぱいの魔攻撃フルコースをお見舞いしてやろうと決めたのさ」とあざ笑いながら口にした。
それを聞いた瞬間、自制心と憤怒が混ざり合う心情で
「あなた方はユーノスなのでしょう、ならば何故魔の才を正しく使わないのですか」と問いかけた。それに対し
「何を言っている?使い方なんて知らん、私らが好きなように使う」と
女はムカついたような表情で返した。
僕は少しため息をついたあと、巡回していた衛士が目に入ってすぐ
「誰か―!」と大きな声で叫んだ。すぐさま衛士が近づいてくるのを確認したのか、ローブの数名は気に食わなそうな顔をしながらも去っていった。
「ふう」と僕はまた少しため息をつく。
「大丈夫ですか、怪我の方はどうですか」とおじさんの方に振り向き、腕をもち引っ張りあげた。
「いやー、助かりました。けがは大丈夫です、まあ軽いものです」と手で塵を払い安堵した表情のおじさんに「そうですか、それは安心しました。」と僕は返す。
辺りを見回すともうすっかり日も暮れ家々の明かりが灯っていた。
「僕の家が近くなのでとりあえずいらっしゃってください。そこで色々聞きますから」と誘い気味に口にすると「いえいえ、そこまでして頂かなくとも。商人たるもの信頼と時間が命綱ですから先を急ぎませんと」と遠慮気味に返すおじさん。
しかし服飾や荷車から見て夜道は危険だと思い
「真の商人たる人は身なりや使う物も綺麗でいてこそ真価が出るのです。時には休息も大事ですよ」と僕は心配ともてなしを混ぜ言った。
それを聞きおじさんも
「そ、そうですか。ではそうさせてください。」と若干の笑みを浮かべた。そのまま僕はおじさん、そしておじさんが引いていただろう荷車と一緒に家に帰った。
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