第3話

 僕とロイナ、それに他の多くの生徒が食事の時間とし始めた頃。僕等がいた食堂や教室がある第一学舎のすぐ隣、それなりの広さがある実験室や先生たちの総執務・研究室が入っている第二学舎の一角では魔工学院からデータ収集を目的とした試作の魔工具の実証試験が行われていた。


普段、先生達は通常の教職としての仕事の他、魔工学院から時々送られてくる試作段階の魔工関連器具、機構の実証も行っている。またこれに関われるのは先生だけでなく、生徒も数名ほどは見学として目にすることができる。


 僕は教室内の散乱した光景を目に入れつつも壁に貼ってある実証や研究時間の予定表に目を通した。その日行われていたのは二項目。一つは発動機と魔工を組み合わせたいわば「魔工エンジン」、もう一つは魔工を使った簡単な作業補助用強化スーツ。


片方の魔工エンジンはかなり実用化が進み、町によっては実用動力源として担うようにもなってきた。しかし大型のものは依然少なく、出力の安定化と少人数維持の実現が急がれる。強化スーツに関してはまだ開発が始まったばかりのため未開拓と言って差し支えは無い。

教室に着いて五分ほど経った頃、ようやく煙の量も匂いも引いてきたのでぼくはそっと中に入った。大小さまざまな機械の破片が床に散乱していることに変わりはない、それもあり慎重に足場を確保しながら奥へ向かう。そこにいたのは赤目の少年だった。


 彼の名はロイド、かなり良い運動神経を持ち普段の授業でも座学は少し苦手なようだが体を使った動的な授業になると様子が一変しクラストップの優秀者に様変わりする。ただ、そういうパラメータが影響してなのかストレートなのがかえって仇となり喧嘩が起きることもある。


 僕は、そんな彼を前に周りの様子を再び伺い、換気の幅を広くするため窓に手を

かけググッと引き開けた。


「リヴィ、手間かけさせてごめんね。体は何ともないから心配はご無用だよ」と

若干痛そうにしながら口にした。

立ち上がりながらロイドが言ったので、僕も「それはなにより、大きい音がしたから心配したよ」と返した。


周りにいた先生達も破片を手でよけながら腰を上げこちらに寄ってきた。

「いや、リヴィ君とロイナ君が来てくれてよかった。」次に先生がお礼を言うと

「なにがあったのですか?」と僕は尋ねた。


 どうやら先生たちが強化スーツのチェックをしていた所、見学生として部屋に来ていたロイドが「使ってみたいです!」と進言。少し悩んだものの、未知に触れるいい経験になればと思い装着させその様子を見ていたらしい。

すると、腰についていた動力源からの供給が不安定になり、そのまま足を進める段々動きにふらつきが出始め、体勢を崩し近くにあった魔工エンジンが熱に反応して破損したようだ。幸いスーツが強固だったため怪我はそこまでなかったらしい。


 「ロイド君、すまなかったね。まだスーツやエンジンは試作品の域を出ず、不安定さが残る代物。こういうことは織り込み済みな部分もある、大事なくてよかったよ」とどこか安心した顔で謝る先生。


ふと時計をみるとこの部屋に来てから一時間ほどが経っていたことに気づいた。

ロイドを念のため医務室に送り届けた後、安心した気持ちで階段を上がり教室へ。


その途中ロイナが「陽が落ちる前に帰ろうよ」と言ってきた。

僕は「わかった。正門で待っておいて」と返し急ぎ足で教室に戻りカバンを取って

また段を降り正門に向かった。程なくロイナの元に着き、僕は来たときと同じように足を進めだした。


「今日はビックリしたね」と少し笑いながらロイナが一日を振りかえる。

僕も「ホントにね、ロイドのストレートさには恐れ入ったよ」と少し苦笑いしながらも返した。後もそんな風にして話の幹を伸ばしていく。

「じゃあ、また明日」と言ってロイナとは途中の道で別れた。


また足を進め、その中で一瞬空に視線を向けた先にはまだ少し青の空があった。

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