第2話

 階段を上がり廊下を少し速足で進む、それから程なくして教室に着いた。教室に入り自分の机に向かいながら周りを見回すと、多くの机上に「魔と道のすすめと基本」と書かれた少し厚めの本が置かれていた。

僕は視線をその本に引かれながら椅子を引き、腰を下ろし授業が始まるまでの10分程をしばし休息と周りと談話の時とした。


 5分ほどが経ち周りとの会話にも熱が入り始めた頃、廊下の方から「ドンドンドン」と勢いよく足音が近づいてきた。瞳を音のした方向へ向けると、そこにはとてもお洒落な格好で気品さ漂う雰囲気があった。

しかしその雰囲気の真ん中にいる当人の顔はかなりヘトヘトな様子。彼女の名はルミーゼ、文武両者ともに長けており僕のクラスで常にトップクラスの成績を保持し先生達からも一目を置かれている。


「今日は危なかったけど何とか間に合ったわ」と口ずさんで彼女は教壇の右側手前辺りにある自分の席に座った。勉学優秀で運動センスもあって完璧そうに見える彼女。

しかしそんな彼女でも「朝」という科目に対しては歯が立たたないようだ。


 そうこうしている内に始業の鐘が鳴った。すると先生が僕のところに寄ってきて

「はい、リヴィさんこれが今日使う教本です」と一言。

いつも僕は通り両手を出して丁寧に受け取った。先生は僕に教本を渡した後、グルっと教室を見回してまた教壇に戻っていった。


 「皆さん、夏休みは各々しっかりと休息を取り勉学にも励んだことでしょう」と

まずはお決まりの定型文、次に服の内ポケットから銀色のペンダントを取り出す。

「みなさんこれが何かわかりますね、魔工学院卒業の証です。今日はこれに関してのお話をします」とペンダントを左右に丁寧に見せまたポケットに仕舞った。


本を開き目次を指で追っていくと最初の項は「魔工」となっている。

そのページへめくっていると先生が

「はい、では復習ですが「魔工」とはどのようなモノですか。リヴィさん」

と問いかけてきた。

僕はすかさず「はい、『魔工』というのは今から少なくとも1世紀以上前に確認され、工業と魔法を合わせた一つの技術形として発展し段々と生活の中にも入りつつある技術のことです」と少し自慢げに覚えていたことを唱えた。


「よろしい」と先生が少し褒めてくれた。そして先生は教本に沿い話を進める。


 発見された当初は魔工技術を正しく扱える者が少なく、未知の部分がほとんどで魔法自体が危険視されていた。しかし同時期にある町から首都に働きに来た一人の男がいた。その者は全く危なげなく魔工を操り、しかも簡易な魔法術を発揮できた。

その者をきっかけに魔法に長け、魔工を操れる才を生まれ持つ存在がいることが確認された。そんな流れで授業はテンポよく進む。


 すると先生が「以降魔法の才を持つ者持たない者を何と呼ぶようになりましたか。では、ロイナさん」と今度は彼女へ問いかけをした。

ロイナは落ち着いた様子で「魔法の才を持つ者を『ユーノス』、持たないもしくはそれに近い力しか持たない者を『ミアス』と呼ぶようになりました」と唱えた。

「その通りです」と先生は軽く褒めた。一息おいて僕は視線を教本に戻す。


 魔法に長け魔工を操れる才を生まれ持つ存在がいることが確認された後、魔を使った機構物を作り正しく扱える魔工師、魔工を使いそれを戦場で操り戦う戦闘士。

二つの魔工職が生みだされた。先ほど先生が僕らに見せてくれた物、あれは魔工職養成と研究を行うこの国一番の学び舎「エルドルトハイン魔工学院」の卒業の印。

そうして先生が教本の目次に沿って話を進める中、僕は傾聴しながらも少し高揚した心持ちでめくっていった。


 ふと時計を確認、どうやらその間に一限は終わり二限へと進んでいた。目線を教本に戻し話の方へ意識を向ける。


 魔工学院を出た後のルートは大きく三つある。

一つ、工業の街グロッツもしくは食と観光の街ジェーニャそれぞれにある、個々の街の産業や特色に特化した魔工の学び舎に入る。

一つ、魔工学院にある研究課程にて様々な種の魔工研究と実証に参加。

一つ、国の内政や行政に対し役職や魔工の専門家として参加もしくは周辺国に出向いての研鑽。以上三点だ。さっきと変わらず教本に目を向けながら耳にも意識を向けていると先生の話が少し止まった。何かと思えばすぐさま二限終業の鐘が鳴った。


鐘の音が鳴る中で先生が

「今日の『魔工と基礎』の授業はここまでとします。皆さんが約半年後に魔工学院の門を叩くためにも、各々自分の進路に灯りを照らし始めてくださいね」と労いと喝の意が込められているだろう意を表した。


 先生が教室を出ると周りは昼食をとり始める、それには変わらず僕もロイナを呼び寄せて一緒に食堂へ向かった。机につき、お腹が減っていたのですぐに食べ始めた。たまに少し喉を潤しては授業で言われたこの先についてロイナと話した。


昼食時間の半分が過ぎた頃、突然「ガッシャ―ン」と何かが崩れたか割れたかそんな音がした。僕は急いで片付け、音のした方へ向かった。現場に着きそこにあったのは煙と機械の破片が散乱した教室だった。

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