魔工と探求
御崎 黒磨
日常の章
第1話 朝日と一歩
母様の一日は早い。朝起きたら一目散に台所へ向かい、食事の準備のために皿と使う野菜等を用意して下ごしらえを完了させる。それが一段落したかと思えば、次は少し台所から離れてダイニングに当たる部屋のカーテンを開け机の上を整頓してまた食事の準備に戻る。我が家には一応、いつもお手伝いとして来てくれているセナという者がいる。
セナはいつも朝来るとせっせと動く母様を見て
「ローニャ様、そういうことは私の仕事なのですからもう少し陽が昇るまでゆっくりしていて下さい」というがそれに対し母様は
「いいのよ、私料理をすること自体が好きだし勉強にもなるし。セナは私の手が回らない所をお願い」と返す。
少し困りながらも「わかりました。では後ほど」と言ってセナの一日が始まる。
そんな我が家の日常劇を思い返しながら僕は足を進め学校へ向っている。陽もくっきりと見え雲は多少あるが、十分に晴天と言える空。そんな宙を時々見上げつつ歩く。すると少し前に通った筋道との交差点に着いた。
右側に少し振り向くと、視線の先にはこちらに手を振る少女がいる。まるで随分としっかり者でいつも僕を支えてくれていそうな少女。段々と一歩を進め少女は僕の方へ近づく。
一息おいて「おはようリヴィ君」と声をかけてきた。
彼女の名はロイナ、僕が通う初等学校の同級生で幼馴染。学校の課題や他にやることが残っている時でも、つい興味関心あるモノへ引っ張られ気味の僕を制止して紐を元の位置に戻してくれる。そんな世話焼きでとても大人びた僕の親友と言える友人だ。
僕も続けて、「おはようロイナ」と声を返す。
彼女の視線が僕の手元に向いたので、それを追うように視線を下げると持っていたカバンの口が少し開いて中身が光を浴びていた。僕は急いで整え口を閉める。
一拍おいて彼女と一緒に歩きだし、学校へまた足を一歩ずつ進めていく。
するとロイナが「今日からまた学校だね、いよいよ学院の扉をノックできる時が近づいてきた感じだよ」と半年後に待っている新しい扉、その先への期待を露わにするかのような少しの笑顔で心境を口にする。
当然、これには僕も「そうだね、学院の扉にあと少しで届く。この時をどれだけ待ちわびた事か、僕はあの場所に絶対に入って立派な魔工職になるぞ」と興奮と早口を混ぜたような口運びで今の心境と抱負を語る。
しかしそんな興奮の言葉を口にしながらも脳裏では
「展廊館の図書域で出会った一冊の手帳。あれに書かれていた事の真意、その先にある秘匿された何か。それらを深く知るためにも絶対あの場所にたどり着いてやる」と、記憶の回想、冷静な思考が回った。
そんな風な思考の道を裏でたどりながらも、僕はいつもと変わらずロイナとの会話を通し話に花を咲かせていく。一瞬、ロイナが少し寂し気な顔を浮かべた。
次にふと「学院の扉が近づくってことは初等科での学校生活ももうすぐお終い
なんだね」と静かに言った。でもすぐさまスイッチを切り替え
「ここまで来たのだからお互い楽しんで悔いのないようにしましょう」
と大人びた表情で話す。
「もちろん」と僕も似た心情で言葉を返した。
そうこうしていると学校の門が見えてきた。正面玄関にはいっていく大勢の生徒たち、もちろんこの光景は学院に入っても似たモノは見られるのだろうが長らく通い毎日見てきた光景だけあって感慨も感じる。足を進め、門をくぐり階段を前に止まる。
「リヴィ君早くいくよー」と先に行っていたロイナが声をかけてきた。
「よし」とひとこと口にして意気込み、小走りながら僕は教室に急いだ。
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