第3話 怪しい男
「うおおお~!ルルちゃああああん!!!!!」
まさかの再開に全身で喜びを顕わにする金髪の色男に、周囲は何事かと驚いた様子で奇怪なものを見る視線を送っていた。戦場で花咲いた恋の灯は未だロバートの胸の内で静かに、しかし力強く輝いている。
ルルから返事をもらう事は出来なかったが、再びこの目で彼女を拝むことが出来た彼はジルの応援もそっちのけでルルに熱の籠った視線を送り続けていた。
そんな中、不意に声。
「や、ロバートさん。隣、良いかな?」
随分と親し気に話しかけてきた男に、ロバートは見覚えがあった。
「ぅお!何てこった……。いや、その節はどうもお世話になりました」
「こちらこそ。ルルがお世話になったようで……」
現れたのは第二帝国の皇子ヴァローダであった。背後には凛とした面持ちのメメノも控えている。ロバートの名前を呼ばぬ配慮に一国の王は素直に頭を下げた。とんでもないビッグゲストの来訪にロバートは慌てて席を詰め、座席の埃を手で払う。
「今日はお忍びで御遊びですかな?」
「忍んでいるつもりはないんだけどね。現にルルは何故かあそこで審査員を務めちゃっているし」
ヴァローダが何気なく指差す先には可愛らしい部下が。どうやら彼もルルが審査員に招かれていたことは把握できていなかったらしい。一瞬、アルテレスと視線が交差するが、お互い何事も無かったかのように視線を逸らし涼やかな笑みを浮かべる。
「で、どうなんだい?」
「は?どう、とは?」
「ルルの事だよ。その後、何か進展はあったのかい?」
「いや……。アレからは一度も会ってないっすね~」
「そうか……。それは残念だ」
と、ここでひと際大きな歓声が上がる。どうやら戦いの火蓋が切って落とされたようだ。周囲が熱気に包まれる中、この二人の佇む空間だけは切り取られたように不思議な静けさを湛えていた。
「ロバートさん。こんな場で話すのもどうかとは思うんだけど、キミさえ良ければ我が第二帝国の剣術指南役として勤めてみるつもりはないかい?」
笑顔のまま固まるロバート。
「……随分突飛な話っすねぇ……。ま、結論から言えばNOっすね。多分条件とかも良いんだろうけど、俺は今のこの生活が気に入ってるんで。それに、帝国で働くのはもうコリゴリでしてね」
「そうか。でも、僕は割と本気だから気が向いたら声を掛けてくれ。キミなら大歓迎だよ。……それにしても、キミみたいな人間が帝国で、それも下っ端の身分として所属していたなんてねぇ……」
言葉は穏やかだ。しかし、声色は確信にも似た疑念に満ちている。その探るように纏わり付く声に、ロバートの背には冷たい汗が滲んでいた。
「……何が目的だったんだい?」
「……え?」
本心から漏れた言葉であった。しかし、ヴァローダはそんなロバートの反応を一笑に伏す。
「ふふ、なるほどね」
「え?ちょ、ちょっと、待ってくださいよ。なんすかその『言わなくても解っているさ』的な反応は。いや、マジで何か明確な目的があったわけじゃないんですけど。本当にフラフラと辿り着いただけなんすけど」
「分かっているさ。そういう事にしておくよ。安心してくれ。僕はどちらかというとキミの味方になれる人間だと思うから」
「え?ナニ?なんなんすか?前にも似たような事を聞かれたことがあるんすけど、俺ってそんなに裏で何かしているような怪しい人間に見えるんすか?言っておきますけど、俺、本当に裏とかそういうの無い人間ですからね!潔白が人の形をしているような人間ですからね!」
カジノの件の事はすっかり頭から吹っ飛んでいる都合の良い男であった。ヴァローダはその無邪気な必死さに頬を緩めながらも、自身の疑いの言葉を撤回することはしなかった。
「さ、競技が始まっているよ。一緒に見届けようじゃないか」
「……」
不機嫌そうに頬杖を突き、友の戦いへ冷めた視線を向けるロバート。あらぬ疑いを持たれてしまっているのは不本意ではあるが、仮にそうだとしても味方で居てくれるという言葉は少なからず慰めにはなっていた。
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この度、スレイブズが200話を達成いたしました。これもひとえに読んでくださる読者様のおかげでございます。これからもどうぞ本作品を宜しくお願い致します。
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メルフェリア冒険譚~死刑囚の女王と魔人と呼ばれた冒険家~
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を公開いたしました。
不定期更新になります。お楽しみ頂ければ幸いです。
メインはスレイブズで執筆していきます。
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