第2話 激闘の予感
第二回戦の会場も同じ場所で開かれる。一回戦の時とは違い、観客は酒や食べ物を大いに楽しみながら観戦に臨んでいた。
ステージの上には既に人数分の調理場が設置されており、炎の魔石を用いたかまども用意されている。
『皆さん、随分とお食事を楽しまれているみたいですねぇ。羨ましい限りです……。私、朝から何も食べていないんですよねぇ……。あ!おにーさん、それくれるんですか!?え?ダメ?イジワル!』
準備が整うまでの間、ミリナナが話術で場を繋ぐ。ある程度会場が客で満たされたところで、ミリナナは改めて第二回戦の開催を告げた。第二回戦は料理対決である。
『さて、それでは今回出場される選手の皆さんと所属ギルドをご紹介していきまぁす!それでは皆さん!ご入場ください!』
歓声と共に選手が一列に並んでステージに上ってくる。エプロンを着た明らかに料理が得意そうな老婆や、主食は肉だと言わんばかりの力強い肉体を誇示した大男。中にはとても料理勝負に挑む者の格好とは思えない、物々しい黒き鎧を身に纏った者も居る。
『……あの~。そちらの方……。れ、レッドデビルさんでよろしかったですか……?』
レッドデビル。その名に会場が不穏なざわつきを見せた。周囲の選手から距離を取られ孤立した黒き鎧の大男は腕を組みながら小さく頷く。その肯定が更なる動揺を会場へ植え付けた。
『その~……。恐れ多いのですが、できれば鎧を脱いで頂けませんかねぇ……?』
「何故?」
『え?何故って……。ホラ、料理対決ですし、鎧を着ながらというのはちょっと……』
「問題無い。鎧を着たままでも普通に料理は出来る。それに、ルールにも鎧を着て参加してはいけないとは書いていなかった筈だ」
『え?いや、しかしですねぇ……』
確かに規約的にはそうなのだが、例えば『裸で参加してはいけない』と定められていないからといって裸で出る者は皆無であろう。ミリナナが伝えたいのはその辺の常識的な思考に基づく行動の重要性であるのだが、どうもこの悪魔は頑として鎧を脱ごうとはしない。
救いを求めるべくミリナナは特等席に座するアルテレスに視線を送ろうとするが、それを大きく野太い声が遮った。
「良いではないか!そこまで言うのだ、着たままやらせてみよ!」
発言主は今回の料理対決で審査を務める者の一人、『ニアザ=ゴルデ』氏であった。宝石が散りばめられたワインカラーの派手な服を纏ったニアザは、ステージの横に特設された審査員席にて毛先の跳ね上がった立派な髭を撫でながら、二重になった顎を歪ませる。
彼は大陸でも名高い美食家の一人であり、あらゆる料理家が教えを乞う実力者でもある。プライドが高く傲慢な性格の彼であるが、それ故にレッドデビルの不遜な態度が気に入らなかったらしい。顔は笑ってはいるが笑みの奥には黒い感情が渦巻いている。
「ただし、そこまでの大言を吐いたのだ。下手な料理を作ってみろ、他の審査員がどんな評価を下そうとも関係無い!ワシの裁量で最下位だ!良いな!」
「望むところだ!」
二人の強気なやり取りに盛り上がりを見せる会場の中、ミリナナは視線でアルテレスに判断を乞う。聖女は柔らかな笑みを浮かべ静かに頷いた。
『おおっとぉ!まだ始まってもいないのにとんでもない事になって参りました!レッドデビル、いえ、ジル=リカルド選手!果たしてニアザ氏の舌を唸らせる料理を作ることは出来るのでしょうか!これは目が離せない!』
二人の大物が火花を散らせる展開に会場のボルテージは一気に上がる。応援に来ていた『猫の手』のメンバーも果敢に声を送っていた。
ミリナナはこのままの勢いで選手紹介を行う。二回戦の参加ギルドは合計で十九。一回戦の半分にも満たない数である。一回戦で得点できず優勝の望みが無い為、料理が得意な者がギルドに居ない為に出場を断念したギルドもあるが、そもそも遊びで参加しているだけで賞金はどうでも良いギルドも多い為、種目ごとに参加ギルド数にばらつきが出ていた。
続いて審査員の紹介が行われる。
審査員は四名。大陸の中でも美食家、健啖家として名高い者が集められており、
その中でもやはりニアザはより多くの歓声を集めていた。
そしてそんな審査員の中で一人、異彩を放つ者が居た。
『さぁ、そして四人目でありますが、今回は特別ゲストに参加して頂いております!第二帝国のデアナイト、ルル=トール様です!帝国随一の健啖家としてご参加頂きました!皆様、盛大な拍手をお願いいたします!』
名を呼ばれたルルが立ち上がり、無表情で観客に小さく手を振る。可愛らしい少女の登場に、観客は皆違った反応を見せつつも大きな拍手を送った。
「うおおおおお!!!ルルちゃぁ~ん!」
ふと、ひと際大きな声が観客席から上がる。見れば、見覚えのある目障りな眩い金髪の男がルルに向け大きく手を振っていた。ルルは半目を浮かべ硬直していたが、結局その声に応える事は無く、黙って席に着いた。
「あら?お知合いですか?」
隣の審査員の『マダム・フォクク』がルルに問うが、ルルは小さく首を左右に振り、知らない人です。と冷たく言い放つのであった。
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