第5話 祟り神の城
作りに凝った
外見は粗末な作りながら、その実内部は上等の建材と、職人の技巧が凝らされた大名屋敷そのものである。この屋敷の内部は、青海城の奥御殿を精巧に模して作られているらしい。
板野新二郎は奇妙公の屋敷に召されていた。
――恐れられたものだ。
屋敷の主、奇妙公は現藩主の伯父であり、前藩主の兄に当たる人物である。長子相続の原則に従えば、青海藩主となっていておかしくない血の序列の持ち主だ。前藩主に腹違い兄弟どちらを据えるか、当時の
青海山中に建つこの屋敷も、そのしこりから噴出した
――さながら祟りを成す神様に捧げられた
上方の名のある意匠家によるものと分かる
奥へ続く廊下をゆくと、逆に奥の方からこちらへ向かってくる男と行きあった。見上げるような巨躯と広い肩幅、凶悪そうな顔の左頬に白い刀傷の痕がある。
「土佐」
「板野……」
「橘家老を仕留め損なったそうだな」
すれ違いざまにそう声をかけると、土佐の顔色が怒りに赤黒く変わり、抜き打ちに斬りつけようと腰の刀に手を伸ばした。板野は身を寄せ、素早くその手を抑えた。
「
「き、貴様!」
「短気を起こすな、こんなところで刀を抜いてみろ。ただではすまんぞ」
「ぐぐっ」
どういう工夫があるのか、細身の板野が片手で刀の
「お前の旺盛な闘争心はおれも買っている。だが、いまはその時じゃない。そのことは御前にも申し上げておこう。いまはその力、
「……」
「橘家老のこと。同じ失敗は許されん。この次は、おれに断りなく事を起こすことのないようにするんだな」
「だれが貴様のことなど!」
「いまはそれでいい。そのうちに分かる。お前のような単純な男でも、計画が動き始めればな」
板野がつかんでいた鍔元を離すと、力を込めていた土佐の身体は大きく前に泳ぎ、膝の内側を掬われると身体は一回転して床に転がされた。刀は用いないがすさまじい技のキレである。土佐が飛び起きたときには、板野はもう数歩先を奥を目指して歩きはじめていた。
「いいか忘れるなよ、おれの指示を待て」
やがて板野は廊下の奥を曲がり、全身汗みずくになった土佐雷蔵の視界から消えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます