第117話 処女の生き血

 処置室を出るとゆかりはシャワーで愛の血を洗い流す。

 血はまだ固まっていないので排水溝に吸い込まれるお湯は、すぐにピンクから透明になったが、ゆかりは胸を撫でながら困った顔をしている。


「先生。胸の下も落ちていますか?」


 乳房を両手で持ち上げた挑発的なポーズでベンチに腰掛けて自分を見ている丈太郎に訊いてきた。


「綺麗になってるぞ。ああ、自分では見えないのか。」



 ゆかりはバスタオルで軽く体を拭うと、それを敷いて丈太郎の向かいのベンチに座った。


「巨乳は足元が見えないという話があるが、あれは嘘だな。」


「はい。私はそれ程ではありませんけれど、いくら胸の重さで背筋を反らしていても足元を見る時は少し屈みます。男性でも胸を反らしたまま足元を見る方はいませんよね。」



「どうだ。疲れたか?」


「立ちっぱなしですから少しは疲れましたけれど、それより見学させていただいた時に自分が助手をすることを想定していなかったことを後悔しています。」


「一度見ているだけあって、日向の初回よりは手際が良かったと思うぞ。」


「ありがとうございます。次回からはもっとうまくできると思います。」


「姫の血が付いてしまうのは想定外だったな。何か対策を考えよう。」


「いいえ。先生から見て見苦しくなければこのままでお願いします。なんだかお肌が若返りそうな気がしますので。」


「エリザベート伯爵夫人だったか?姫が処女だったかわからんし、生き血でもないぞ。エロティックではあるが・・・。」


「でも、先生のおちんちんは反応してくれませんでした。」


「あんな目にあわせて申し訳ないと思っていたからな。」


「次からは抱いて運んでいただけますか?」


「ここは『喜んで』と言うべきだろうな。」


「お嫌ですか?」


 ゆかりが不安そうに訊ねる。


「仕事場にそういう感情を持ち込みたくないんだ。決して嫌だという訳じゃない。」


「そうでしたらこれも裸に慣れる練習ということでお願いします。」


 ゆかりは膝に三つ指をついて頭を下げた。



「ところで、最初の処置の時も同じところから切り開くのですよね。処女かどうかわかるのではありませんか?」


「さっさと切ってしまうからな。処女だからと言って明確な膜がある姫ばかりじゃない。罪悪感のようなものもあるから意識しないようにしている。」

「それに死んだ時に処女だったからと言って、おっさんの腕を2本受け入れた姫を処女と呼べるか?」


「そうですね。でも中世では避妊方法も未発達だったでしょうから、エリザベートの意識では男性の精液を受け入れていないという条件だったのではないでしょうか?それなら私も処女ですね。」



「あまり俺の自制心を試さないでくれるか?」


 丈太郎はさっきから立ち上がり始めている陰茎を指差して苦言を述べる。


「練習だからこそギリギリまで試した方が良いのではありませんか?綾さんではできないでしょう?私はピルを服用していますから万一やりすぎても大丈夫です。」


「そういうことにはならないと思うが、それは君の魅力の問題じゃないから心配しないでくれ。理由は最終日に説明しよう。」


「どうして最終日なんでしょうか?」


「嫌われた状態で一緒に仕事をしたくないからな。」


「抱いた女性を切り刻みたくなるとかじゃなければ嫌いになったりしませんよ?」


「そういう危険なのじゃないから安心してくれ。」

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