第114話 特殊なサービス

 船の揺れが大きくなったのを感じて丈太郎は緩やかに眠りの中から浮かび上がった。


「おはよう姫。到着時刻に変更はないか?」


「薫兄様おはようございます。午前8時到着予定に変更はありません。」


 丈太郎はキッチンでいつもの朝食のパックを電子レンジに入れると処置室に向かう。

 扉を開けて内側の壁に引っ掛けてあるフックを使って医療廃棄物入れを引っ張り出した。

 忘れないようにメインハッチの前に置くと、朝食のパックを回収して自室に戻る。

 ニュースでも見ながら朝食を摂りたいところだが、ナスターシャは現代の規格に対応していない。

 丈太郎はコーヒーを淹れると窓の外を流れる朝の風景を眺めながら朝食を済ませた。


 到着まで時間があるので個人端末で報告書を作成していると、ナスターシャからアナウンスが入る。


「薫兄様。あと30分ほどで着きます。」


「わかった。接岸は任せるが10分前にもう一度知らせてくれ。」


「わかりました。10分前にご案内します。」


 丈太郎は切りのいいところまで報告書を作った後で、無駄に豪華なオーナールームの洗面台で身支度をして、着替えを済ますと見張りのために操舵室に上がった。



「薫兄様。あと10分ほどで着きます。」


「わかった。接岸が完了したら報告を。」


「わかりました。接岸が完了したらご報告します。」


 マリーナの桟橋はナスターシャ専用なのでオートにしてしまえば丈太郎にやることはない。見張りができる場所に居ればいいだけだ。

 丈太郎が操舵席で景色を眺めているとマリーナに見慣れた車が停まっていた。



「接岸が完了しました。」


「お疲れ様。俺が船を降りたら待機モードだ。」


 丈太郎はストラップを取り付けた医療廃棄物入れを肩にかけてメインハッチを出る。


「いってらっしゃい。薫兄様。お帰りをお待ちしています。」



 桟橋には部長が待っていた。


「お帰り。お疲れ様。」


「ただいま帰りました。どういう風の吹き回しです?」


 部長が医療廃棄物入れを持ってくれる。


「茅野氏から丁寧なお礼の電話があってね。優秀な職員を労いに来た訳だよ。」


 部長が医療廃棄物を車の前のトランクに入れている間に丈太郎は助手席に乗った。

 完全メカニカルのサスペンションが沈み込む。


「また動くようになった骨董品を見せたかっただけじゃないんですか?」


「それもあるかなぁ。」


 部長がキーを回すとガソリンエンジンが目を覚ます。

 走り出した車の腹に響くようなエンジンの鼓動の中で部長は


「茅野氏の件も本当だよ。株主の心証は総会の時に大切だからね。これからもこの調子で頼むよ。」


 と調子のいいことを言うのだった。



 医療廃棄物入れを部長に任せて処置準備室に入るとゆかりが待っていた。


「おはようございます。出張お疲れ様でした。」


 ゆかりは立ち上がって相変わらず丁寧なお辞儀をしてくれる。


「おはよう。よろしく頼む。週末は命の洗濯をさせてもらったよ。」


「そんなに楽しい出張だったのですか?」


 ゆかりが前のめりに訊いてくる。

 この娘も好奇心という意味では猫っぽいなと思いながら、丈太郎は茅野邸での事を思い出す。


「豪華な食事と立派な貸切温泉。助手は現役女子高生だ。」


「それは・・・。次は私を助手として連れていっていただけませんか?」


「毎回こんな待遇な訳じゃない。連れて行くならまず日向だが、仕事の内容から言って女連れはマズい。向こうから依頼があれば別だが・・・。」


「たしかに見えないだけにいろいろ妄想されてしまいそうですね。」


 ゆかりが悪戯っぽく微笑んだ。



 更衣室に入ってシャワーを浴びる。


「先生。隠毛が伸びてきていますよ。剃って差し上げますからベンチに座ってください。」


「おいおい、助手だからってそんなことまでやらなくていいんだぞ。」


「裸の助手に慣れるんでしょう?綾さんはどうか知りませんが、私は普段から卒業生のムダ毛の処理をしていますから安心して任せてください。」


 ゆかりが浮き浮きと自分のサニタリーセットから剃刀を取り出す。

 戸惑っている間に丈太郎は背中を押してベンチに座らされた。


 丈太郎の股間の前にゆかりが跪く。

 シェービングクリームの代わりにボディーソープが陰茎の周りに塗られると、項垂れていた丈太郎の陰茎が存在感を増して立ち上がり始める。


「やっぱり元気になってしまいますね。邪魔になる前に上から剃っていきますね。」


 ゆかりが陰茎を優しく押さえながら臍との間の少し伸びた陰毛を剃ってゆく。

 彼女の二の腕に挟まれた乳房がふにゃふにゃと変形する。

 すっかり立ち上がった丈太郎の陰茎を左右にどかしながら陰毛は手際よく剃られていった。


「お尻の方はどうしましょう?」


「そこは見えないだろう?剃らなくていい。」


「そうですね。じゃあこれでおしまいです。」


 丈太郎は四つん這いになって尻の毛まで剃られずに済んでほっとした。


「ありがとう。」


 もう一度シャワーで洗い流し、処置室に入る。


 ゆかりはかんざしで長い髪を纏めた。


「お、新鮮な感じだな。」


「綾さんに簪を借りました。なんだか気持ちが引き締まりますね。」


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