第108話 月見風呂
「先生。風呂で月見酒といきませんか?祝杯をあげましょう!」
さらに機嫌が良くなった茅野氏に誘われる。
「私も行くー!」
「父親の目の前で娘さんと混浴というのは眼のやり場に困るのでちょっと・・・。」
と丈太郎が難色を示すと、茅野氏は
「月見酒なので大浴場の明かりを落としますから大丈夫ですよ。最近、夏が一緒に風呂に入ってくれないので助けると思って付き合ってください。」
と、どこかで聞いたようなことを言ってきた。
「入院してるおじいさんとは一緒に入るのになんでだ?」
「だって学校の友達がお父さんと一緒にお風呂に入るのはおかしいって言うんだもん。」
「それは友達の家のお風呂はあんなに広くないからだと思うぞ。」
「そっか。わざわざ狭いお風呂に一緒に入るのは変だよね。」
茅野氏が夏に見えないようにそっと頭を下げた。
「あなたは飲んじゃダメよ。」
夏が2人の後ろを茅野夫人に渡された徳利とお猪口が載った盆を持って追いてくる。
「手ぬぐいとは徹底してますね。」
丈太郎と茅野氏の持ち物は手ぬぐい1本だ。
「風流を肴に酒を飲むんですからこれぐらいはやらないとね。酌をしてくれるのが小娘なのが残念ですが。」
「父さま。明日からは一緒に入らなくていいの?」
「いや。時代劇みたいなのをやってみたかっただけなんだ。将来に期待してるよ。」
やはり父親は娘に弱いらしい。
脱衣所で裸になるが、夏は父親の前でも躊躇がない。
「しばらく見ないうちに胸が大きくなったじゃないか。」
父親の方も変な照れはなかった。
「お姉ちゃんぐらい大きくなるかなぁ。」
「父さんはお母さんぐらいが好きだぞ。」
浴室に入るとフットライトだけが灯っていた。
暗くはあるが、歩くのに支障はない。
背後から明かりを感じて振り向くと夏が持つ盆が光っている。
「こんなものがあるんですね。」
「同好の士の中では有名な商品だよ。」
盆の光で夏の胸がうっすらと照らされている。
「この明かりで大きな胸だったら興醒めじゃないですか?」
巨乳だと胸の上半分が照らされないだろう。
「それもそうだね。夏。綺麗だよ。」
「そっちの都合で私の胸の評価を変えないでください。」
夏は少し拗ねながら胸を張った。
掛け湯をして窓際の浴槽に3人で並ぶ。
茅野氏が窓際のスイッチを切るとフットライトは消えて、明かりは夏の前に浮かんでいる盆だけになったが、窓から入る月光で十分に明るい。
「先生。どうぞ。」
真ん中で湯に浸かっている夏がお猪口に酒を注いでくれる。
「父さまも。」
「それでは改めて。美しくなった秋と、夏の将来に。乾杯!」
高く昇った月が川面を照らしている。
「満月・・・じゃなく小望月でしょうか?」
「それぐらいだろうね。この風呂はちょっと南向き過ぎたよ。もう少し東向きだと昇ってくる月が川面を照らした光の道が正面に見られるんだが・・・。」
「欲張りですね。この方が夏は天の川の濃いところが見えるんじゃありませんか?こんな贅沢な風呂は初めてです。」
「私は天の川の方が好きだよ。お月様は変化が無いからすぐ飽きちゃう。」
「まあそうだろうな。天の川が良く見えるぐらい風呂を暗くしたら酒が飲めないんだよ。」
「なんだぁ。飲んべの都合かぁ。」
星空談義をしていると、フットライトが灯った。
「失礼します。なんだか独りは寂しくって。先生。私もご一緒させていただいてもよろしいでしょうか?」
茅野夫人の声だ。
「構いませんよ。これだけ暗ければ私もドキドキしないで済みます。」
「まあ。先生は若い子にもおばさんにもお上手ですね。」
「それほどでもありませんが、毎日女の園でダメ出しを喰らっていますからね。」
茅野夫人は濁り湯の中に体を沈めた状態で近付いて来て茅野氏の向こう側に浸かったので、顔だけしか見えなかった。
「今日はお姉ちゃんが居ないもんね。」
「先生。月の光の力を借りて、ご相談させていただきたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
茅野夫人がどこか思い詰めたような声で言う。
「ご主人よりは頼りないですが、私でお役に立てる事でしたら。」
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