第95話 懇親会④

「今日も持ち込みか?」


 丈太郎はいつもの「ゆかり」を彼女のぐい飲みに注ぎながらゆかりに訊ねる。


「部長さんにお願いしました。五合瓶なのでちょっと残念です。」

「先生もどうぞ。」


 ゆかりに酒を注いでもらった丈太郎は舟盛りをつつこうとしたが、もうほとんど残っていない。


「ずいぶん売れたな。」


「先生が構ってあげないから、途中から綾ちゃんが黙々と食べていたんですよ。今度から綾ちゃんは先生の向かいにした方がいいんじゃないでしょうか?」


「そうだな。元は2人の飲み会だったんだから悪いことをした。」


「今からフォローしておけば次に会う水曜日までにはきっと熱り《ほとぼり》が冷めると思いますよ?」


「あの状態の日向にフォローかぁ・・・。」


 今度は有里に抱き付いている綾を見て丈太郎は頭を抱えた。



「日向ぁ。あんまり飲むなよ。『ユミちゃん』を連れて帰るんだろう?酔っ払いには任せられないぞ。」


「えー。無人タクシーならいいって言ったじゃないですかぁ。」


「酔っ払い過ぎだ。誰彼構わず抱きつくような奴には任せられない。」


「んー。じゃあシャワー浴びてきます。」


 綾が有里から離れて部屋の奥のシャワーブースに向かって歩き出す。


「佐藤。そこのエアカーテンのスイッチを入れてくれ。」


「はーい。綾ちゃん1人で大丈夫?」


「大丈夫ですよぉ。有里さんも洗ってあげましょうか?」


「じゃあお願いしようかな。」


 有里は丈太郎に向かって頷くと、綾に続いてシャワーブースに向かった。



「佐藤はあれで結構しっかりしてるのか?」


 丈太郎はシャワーブースで戯れている2人を眺めながらゆかりに訊ねる。


「基本、ミュージアムスタッフはみんな世話好きですよ。卒業生のお世話をするのがお仕事ですから。」


 ゆかりが答えながら丈太郎にくっついてくる。


「おい?」


「綾ちゃんがいないうちに練習しましょう。瞳さんも。」


「先生ー。」


 反対側から瞳も抱きついてきた。

 こちらは酔っているようだ。


「熱いー。」


 陰茎が2人に握られる。

 利奈が立ち上がって丈太郎の前に来た。


「綾ちゃんがこっちを向いたら見えちゃうでしょう?」


 体で綾の目から隠してくれているようだが、逆に利奈の体は丸見えだ。


「お前ら酔ってるにしても積極的過ぎだろう。」


「仕事柄みんな男日照りなんですよ。先生の知り合いのお医者様でいい人いませんか?合コンしましょうよ。」


 利奈が有里のようなことを言う。


「俺の知り合いなんておっさんばかりだぞ。確かに独身も居るがナースの誘惑にも落ちなかった男を落とせるか?」


「そうでした・・・。じゃあ法医学教室の後輩とかはどうですか?」


「確かに仕事への理解はあるかもしれないが、あそこに人間には金がないし人数も少ない。それなら部長に頼んだ方がいいだろう。多分あの人は女衒ぜげんもやるぞ。」


「この場合、でしょうか?今度訊いてみます。」


「2人とも、そろそろ綾ちゃんが帰ってくるわよ。」


 ゆかりと瞳が丈太郎から離れたのを確認すると、利奈は席に戻った。



「綾ちゃんおかえり。酔いは覚めた?」


「お騒がせしました。もう大丈夫です。生理前だからいつもより酔っ払っちゃいました。」


「無人タクシーを呼ぼうと思うんだけど、綾ちゃんの家はどっちの方?」


「私は6区です。」


「じゃあ私と同じね。先生はどちらですか?」


「ああ、俺は徒歩だから。」


「え?ここから歩いて行ける距離に住宅なんてありましたか?」


 みんなの視線が丈太郎に集まる。

 ミュージアムは大きな墓地の跡地に建っているため、周囲にはコンビニ併設のエネルギーステーションとリサイクルセンターぐらいしか建物が無い。


「マリーナにクルーザーがあるだろう?あそこだ。」


「「「「えーっ!」」」」

「あのレトロなクルーザーですか!」


 レトロとはよく言ったもので、ひと昔前から豪華クルーザーは太陽光パネル装備の双胴船カタマランが主流になっていて、最新式などはリバーリムジンのような浮上機能まであるのに、マリーナに停泊しているクルーザーは単胴で太陽光パネルも装備していない。


「先生、もしかしてお金持ち?」


 そろそろお開きかという雰囲気だったのが一気に騒がしくなった。

 ゆかりがまたくっついてくる。


「あれは俺の持ち物じゃない。出張処置室兼、社畜用社宅だ。」

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