第74話 みなみ・友紀②

「報告会でいろいろ聞いている様だから、少し外れたことでもいい、質問があれば訊いてくれ。」


 いつものように休憩を兼ねて更衣室で質問を受け付ける。



「メンテナンスでの優先順位を教えてください。」


 みなみが管理職らしい質問をした。


「可能な限り処置直後の状態を維持すること。生前の状態を再現すること。ミュージアムの要望を叶えること。の順だ。」


「今回のヒップラインの改善も、今後の経過次第ではやめる可能性もあるということですか?」


「そうだな。経過が思わしくなければ、やめるか他の方法を考えることになると思うが、川田の喜び様を見ている限り、他の方法を考えることになるだろう。」


「姫ちゃんのためですか?」


「そうだ。」


 ユミが諦める筈がない。



「姫ちゃんが処置を受けたのは、いちばん最初の卒業生の4年前だそうですけど、何か問題は出ていますか?」


 今度は友紀だ。


「姫は展示されている卒業生と全く同じではないが、今のところ聞いてないな。」


「姫ちゃんは何が違うんですか?」


「姫はカプセルの中で常に横になっている。温湿度は肌の状態などに合わせて厳密に管理され、老廃物も川田が毎日綺麗にしている。そして、姫には脳とオリジナルの眼球、子宮、卵巣がある。」


「「「!」」」


 これには全員が驚いた。

 質問者が綾に変わる。


「それは・・・姫ちゃんが望んだんでしょうか?」


「3人で相談して決めた。眼球は俺の希望だ。虹彩認証があるように、目というのは生前を知っている人間が偽物だと知って見れば、どんなに金をかけて作っても違和感を感じるからな。」


「卵巣と子宮は、将来丈太郎先生の子供を生むためですか?」


「さすがにそれが不可能なのは姫もわかっていたさ。嫁入り道具のようなものだったんだろうな。『初夜を迎えられなくてごめんね』と言っていたから。」

「卵子は川田が冷凍保存してるが、使われることはないだろう。」


「ユミちゃんは姫ちゃんの代わりに産んであげるって言わなかったんですか?」


 みなみだ。


「よくわかったな。しかし俺が断った。そういうのは女の側が望むもんだ。俺は女の子でも生まれようものなら欲情しない自信がないし、川田が子供を育てることには不安しかない。」


「先生の下半身には分別というものがないんですか?」


 しんみりしたのを台無しにされた綾が、いつもの調子で丈太郎を責める。


「俺が頑張って抑えてたのを台無しにしたのはそっちだろう?毎日どれだけ気を張ってたと思うんだ。許可をもらったから今日からリラックスして仕事ができる。」


「「不祥事は起こさないでくださいね。」」


 綾を心配してみなみと友紀が声を揃えた。


「俺をなんだと思ってるんだ?」


「先生のおちんちんは元気過ぎます!」


 綾が体に巻いているタオルの胸元を握って抗議する。


「抑えきれそうになくなったら、姫の顔でも思い浮かべるさ。これでいいだろう?」


「綾ちゃん、襲われそうになったら『姫ちゃん助けて!』って叫ぶんだよ。」


 さっき胸を当ててきたみなみに理不尽なことを言われた丈太郎は、休憩を切り上げることにして、堂々と陰茎を勃たせたままで、と作業とどちらを見学しているのかわからない3人の前で高島結衣の状態確認を済ませた。

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