第70話 花(みなみ・友紀)

「今日は花ちゃんかぁ。」


 引き出しの中には色白で線の細い美少女が横たわっていた。


 肩幅、胸、腰、四肢、全てが細い。

 ファッションモデルのように骨ばっているわけではなく、その全身はしなやかだ。

 そもそも彼女たちには衣装を綺麗に見せるための肩幅が必要なので、花のような体型は有り得ない。強いて言えば、第二次性徴途上の少女に見られる体型だが、前に傾いた骨盤が子供ではないことを主張している。

 姫のような儚さも無い。

 綾のスタイルも、よく妖精に例えられるがこちらが本物だ。

 同じようなスタイルでも、みなみは身長のせいでファッションモデル、友紀はこけしみたいだと言われる。髪型のせいだが、これは失礼だ。裸になった今ならあることがわかる。


「ため息が出るくらい綺麗な子ですね。」


「妖精みたいでしょう?そう見えるように下の毛は剃ってあるんだよ。」


「背中に羽は生えてませんよね。」


 と言って、綾は抱き上げるために花の背中に手を差し込む。

 抱き上げられて流れる長い髪は、一本一本が細く、そのせいでボリュームが少ない。

 思った通り彼女は軽く、綾1人でも危なげなく作業台に移すことがことができた。



 花を載せた作業台をいつもの位置に押してゆくと、入口から丈太郎が入ってきた。

 みなみと友紀は小さい作業台を押している、

 陰茎をぶらぶらさせながら歩いて来るのをみなみはガン見しているが、友紀はみなみの後ろに隠れた。


「すまんなぁ。昨日あれから躁状態になってしまった川田ザルに付き合わされてな。寝過ごしちまった。」


 うっすらと髭が生えている。


「二日酔いですかぁ?」


 みなみにからかわれる。


「大した事はない。井上くんは恥ずかしかったらそっちの作業台の後ろに行くといい。」


「友紀、お医者様みたいなものだから恥ずかしくないよ。」


 堂々と全裸を晒しているみなみが嗜める。

 彼女の陰毛は短く切り揃えられている。


「ファッションモデルのバイトで慣れてるみなみさんとは違います。」


「医師免許なら持ってるぞ。」


 友紀は渋々、上半身を赤く染めながら胸だけを隠してみなみの後ろから出てきた。


 人は弱点を隠すものらしい。

 股間を隠すのは産毛に近い陰毛だけだが、大陰唇の肉付きがいいので中身は見えない。



「始めようか。彼女は伊藤花。大学生だった。死因は睡眠薬の過剰摂取。自殺だ。」


「動機は何なんですか?」


「夢見がちな子だったみたいだな。永遠に美しくありたかったそうだ。遺書が流出していたらヤバかった。」


「奨学金制度がなかったら、彼女は自殺しなかったんでしょうか?」


「わからん。死ぬのも彼女の権利だからな。しかし奨学金制度のおかげで死なずにすんだ奨学生もいるだろう。彼女は望みを叶えた。それだけだ。俺たちの考える事じゃない。」


「そうだよ綾ちゃん。ミュージアムでは最初に『私たちにできるのは卒業生を美しくあり続けさせてあげる事だけだ。』って教わるんだよ。」



「まずは肛門の目視での確認と肛門拳筋の触診をする。」


 丈太郎と綾で花にうつ伏せでお尻を突き上げた恥ずかしいポーズを取らせる。

 妖精のような彼女が取ると、同じポーズでもいやらしさが無いが、肉の薄いお尻の真ん中には、やはり肛門と性器がある。

 肛門は限界以上に拡がっているが、色白な割にそこの色はどちらも濃いめだ。


 丈太郎と綾が、交代で肛門を拡げるように触診をする。


「はっきりしないが、肛門拳筋は細めかな?便秘になると太るってイメージがあるが、実際どうなんだ?」


 これは見学している2人に対する質問だ。


「女同士でも、誰が便秘かなんて把握してませんよー。友紀、女子校ではどうなの?」


「結構、便秘の話はしますけど、周りに話を合わせる子もいますから、本当のところはわかりません。」


 女子グループのあるあるだ。


「肥満も便秘も原因は食生活だけじゃないからな。」


「どうして便秘の話が出るんですか?」


 友紀が訊いてくる。


「肛門拳筋の太さに関係があるかもしれないんだ。もし無関係だったらいずれ体型だけで判断できるようになって、毎回こんな恥ずかしい格好をさせなくても済むからな。」


「好きでやってるんじゃなかったんですね。」


「俺を何だと思ってるんだ?」


 姫やユミとの関係といい、丈太郎はいろいろ誤解されている。

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