第68話 姫⑦

 モニター画面が姫の動画に戻った。


「え?姫ちゃん?」


「何これ。かわいー!」


「避暑地のお嬢様みたいですね。」


 事情を知らない3人は大騒ぎだ。


 丈太郎はもう少し検討したかったのだが、貴重な資料も貰えそうなので、引き下がる事にした。


「薫ちゃん。あの子たちは自由にさせておいた方が役に立ってくれると思うよー。」


 ユミは察したらしい。



「ユミちゃん、ずっと姫ちゃんの動画流してるの?」


「それはスクリーンセーバーだよー。」


「何それ?」


「大昔にモニターが分厚かった頃、画面の焼き付き防止に映していた動画です。」


 ゆかりが中途半端に詳しい。


「今は焼き付きなんてしないじゃん。公私混同ー。」


「違うよー。私物だもん。」


「えー。姫ちゃん専用?」


「そうだよー。姫の動画が全部入ってるんだー。ランダム再生してるから、ずっと見てたら薫ちゃんも出てくるかもよー。」


「「「「きゃー!若い頃の本間先生見てみた・・・い?」」」」


 4人のミュージアムスタッフの視線が丈太郎に集まる。


「10年以上前だったら10代?」


「いえ、20代後半でしょう?」


「それだと今より老けてたりして。」


「ショタかもよー?」



「「「「ユミちゃん見せてー!」」」」


「薫ちゃんがどこに写ってるかなんてわからないよー。」


 4人が引き下がらないので、ユミがファイラーを表示させる。

 表示されるファイル名は、どこまでスクロールさせても、全てが『姫○○○○△△△△』だった。



 仕方がないので彼女たちは女子高生のように騒ぎながら、姫の動画を見ている。

 今は綾も参加して5人だ。


「姫ちゃん大人気で嬉しいよー。」


 ユミはご機嫌でビーカーに入った『ゆかり』を飲んでいる。

 しんみり動画を眺めている丈太郎のコーヒーカップの中も今は『ゆかり』だ。


「これ、いつ頃のからあるんだ?」


「姫が髪を伸ばし始めた頃だから、小学校に入ったぐらいかなー。」


「筋金入りだな。」


「当たり前だよー。あんなにかわいい妹がいれば誰でもそうなるよー。」

「薫ちゃんにもあげようか?」


「要らん。俺が見た姫だけでいい。」


「むふー。姫ちゃん愛されてるー。」



「お注ぎしますね。」


 ゆかりが丈太郎に『ゆかり』を注ぐ。

 せっかく美人がお酌してくれるのに一升瓶とコーヒーカップの組み合わせが残念だ。


「これは美味いな。」


「お刺身に合うんですよ。」


「瞳ー。本間先生が『ゆかり』が美味しいってー。取られちゃうよー。」


 有里が気付いてはやし立てる。


「私も美味しいですよー。」


「お前ら酔ってるな?程々にしておけよ。特に宮崎。」


 みなみの酒癖は丈太郎にまで聞こえている。


「私は飲んでません!」


 みなみがしっかりした声で反論してきた。顔色を見ても酔った様子はない。


「どうした、ドクターストップでも出たか?」


「失礼な!明日見学だから控えてるんです。先生こそ程々にしてくださいね。」


 と言うと動画鑑賞に戻った。




「「「「「きゃー!」」」」」


 5人組から悲鳴が上がる。

 モニターの中では小学生と思われる姫が全裸でポーズを取っていた。


「ユミちゃん、ヌードも撮ってるの?」


「毎年誕生日に撮ってたんだー。」


「ユミちゃん、コピーさせてー!お願い。」


 いちばん熱心に動画を見ていた瞳が『ゆかり』の一升瓶をユミのビーカーに注ぎながら懇願する。


「お友達の瞳ちゃんでもダメだよー。生きてる姫はお姉ちゃんと薫ちゃんのものだからねー。」


「どうして本間先生がよくって私がダメなんですか?」


 瞳が食い下がる。


「薫ちゃんは姫ちゃんの旦那様だもん。」


「元な。」


 丈太郎が訂正する。


「「「「「えー!」」」」」


「薫ちゃんが処置の日に、姫との婚姻届を出してくれたんだぁー。だから私とも兄妹だよー。」


「元で義理だ。」


「じゃあ、元で義理でバツイチだよー。」


「1日だけだがな。」


「だから今の姫ちゃんの顔、幸せそうでしょー?」


 瞳が泣き出した。

 みなみが慰める。


「瞳、残念だけどこれは敵わないよ。」


「違うんです。私は姫ちゃんもユミちゃんもまとめて愛せます。本間先生が独身だってわかってラッキーです。」


「じゃあなんで泣いてるの?」


「姫ちゃんが幸せだったのが嬉しいんですー!」


 瞳が号泣し始めたので、飲み会はお開きになった。

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