第29話 ユミちゃん
綾は処置準備室に寄って頭蓋骨のユミちゃんとブロックを持ってオフィスに戻った。
簪は失くすと大変なので更衣室に戻しておく。
丈太郎は処置室で弘中裕美の状態を確認しているようだ。
オフィスは無人だったので、綾は頭蓋骨に話しかけながら準備をする。
「ユミちゃんよろしくね。私、頑張るからね。」
これがついさっきまで話していたユミの頭蓋骨(の模型)だと思うと少し変な気分になるが、単なる立体パズルではなくミュージアムに展示される美少女たちの処置の練習だということを考えると、名前を『ユミちゃん』にしたのは正解だろう。
「じゃあ入れるね。痛くないようにするからね。」
誤解を招く表現だ。
ユミちゃんの眼窩底に開いた穴は小さいので、ブロックを2つ組んでしまうと入らないように思えたが、互い違いになるように組むのなら入ることがわかった。
それでも2個が精一杯だ。
片手で組んだブロックを摘まんで、反対側の眼窩底の穴から入れたブロックを繋げようとした綾はそれをユミちゃんの中に落としてしまう。
「ごめんね。落としちゃんた。」
と言ってユミちゃんをうつ伏せにして落としたブロックを取り出す。
何度かやっているうちに最初からユミちゃんをうつ伏せにしてやった方がブロックが安定することに気付いた綾は、ユミちゃんを載せていた小さな座布団を枕にして仰向けの状態でうつ伏せのユミちゃんを顔の上に掲げながらブロックを組むというアクロバティックな姿勢になった。
指が攣りそうになって力が抜けるせいで、たまに頬ずり状態になるのが怪しさこの上ない。
途中で、実際の処置ではこの体勢になれないことに気付いたが、とりあえずどこまで組めるかやってみることにした。
時間を忘れてやっていたが、やっと20個ぐらい組めた頃、
「日向さん、何やってるの?」
と声をかけられた。
練習に夢中になっていた綾は気付かなかったが、横に迎えに来たみなみが立っていた。
奇妙なものを見るような表情をしている。
「宮崎さん、もう時間ですか?ごめんなさい。ちょっと処置の練習をしてました。」
「派手な骸骨にのしかかられて『うー』とか『あー』とか言ってるんだもん。呪いの骸骨に襲われてるのかと思ったよ。」
「呪いの骸骨じゃないですよ。川田さんに作ってもらったクリスタルスカルのユミちゃんです。頭蓋骨の中で磁石のブロックを組む練習をしてたんです。」
「ユミちゃんって・・・名前を付けるにしてもあんまりじゃない?」
「川田さんのデータでできた模型なんですよ。だからユミちゃんです。」
「それはちょっと羨ましいかも・・・。ユミちゃんかっこいいもんね。」
「ちょっと触らせてもらってもいい?」
と言われたので、綾はユミちゃんをみなみに渡す。
「あれ、軽いじゃない?」
みなみが重さを確かめるために揺すったので、中のブロックがカタカタ鳴った。
「本当は強化レジンだそうです。」
「これがユミちゃんの頭蓋骨かぁ。」
と言ってみなみがユミちゃんを撫で回す。
「目のところからブロックを入れて中で組み立てるんですよ。丈太郎先生は中が見えない本物でピンセットを使って組むんです。出来る気がしません。」
「今、指でやってたよね。」
「私は手が小さいから指でできるんじゃないかって練習させられてるんです。」
「触覚がある分ずいぶん有利なんじゃない?」
「1時間で自信がなくなりましたけどね。でもユミちゃんを作ってもらった以上、投げ出すわけにはいきません。」
大変な仕事なんだなぁ。と思ったみなみだが、ここに来た本来の目的を思い出したので、ユミちゃんを座布団の上に置くと、
「みんな先に行ってるから、私たちも行こう!」
と言った。
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