第28話 質問
「特殊コーティングとかナノマシンとか、正式にはどういう名前なんですか?」
「名前はないよー。」
「無いんですか?」
「うん。どちらも社内で使うだけで特許とか取るつもりはないからねー。
名前を付けると社外に漏れる可能性が増えるし。
どちらも外注してるけど、毎回違う名前にしてるんだよー。今度綾ちゃんも名前付けてみる?」
「大丈夫です。でも、社内でややこしくないですか?」
「なんでー?私しか作らないし、使うのも薫ちゃんと綾ちゃんだけじゃない。」
「でも、それじゃあユミさんが居なくなったら作れませんよね。」
「そうだねー。でもここは私と姫が一緒に居るために作った会社だから。契約でもそうなってるんだよー。」
「え?社長なんですか?」
「ううん。役員。奨学金の方が大事だからねー。」
予想外に偉い人だった。
「妹さんのことを訊いてもいいですか?」
「いいよー。綾ちゃんにはお友達になってあげて欲しいからねー。姫ちゃんって呼んであげてね。」
「姫ちゃんが亡くなったのは会社ができる前だったんですか?」
「できてからだよー。姫に待っててもらったんだぁー。もっと早く会社ができたら姫もあんなに痩せなくてもよかったんだけどねー。『私がお姉ちゃんの1号になるよ。』って言ってくれたんだぁー。」
「仲が良かったんですね。」
「姫はお姉ちゃん子だったからねー。研究室にも良く来てたよー。薫ちゃんにも懐いてたなぁー。」
「それで丈太郎先生を?」
「それもあるけどやっぱ腕かなぁー。薫ちゃんは切るのがとっても上手なんだぁー。気に入らない患者の手術はしたくないって外科医にはならなかったけど勿体無いよねー。」
「じゃあ姫ちゃんの処置は丈太郎先生と?」
「うん。でも姫のお腹には薫ちゃんの手は入らなかったから、見えないところは私がやったんだぁー。薫ちゃんならもっと綺麗にしてくれただろうけどねー。」
大好きな妹のお腹の中身を取り出すのはどんな気持ちだったんだろうと思った綾は、これ以上この話題を続けられなくなった。
「ところで処置室に長く居ると若返るって本当ですか?」
綾は個人的な最大関心事を切り出した。
「若くなるのとは違うんだけどねー。
老化っていうのは細胞の劣化だからナノマシンがそれを直した結果、若く見える様になるんだよー。だから背が小さくなったり乳歯が生えてきたりはしないよー。」
「丈太郎先生は筋肉質になったって言ってましたけど、私も腹筋が割れたりしますか?」
「多分大丈夫だよー。ナノマシンはミュージアムの女の子が綺麗になるようにチューニングされてるから元々男の子用じゃないんだよー。薫ちゃんのはたまたまかなぁー。」
綾は安心した。
「ミュージアムスタッフの子たちとはよく話すんですか?」
「メンテナンスの前とか後によく話すよー。みんな可愛く展示しようと一生懸命だよねー。綾ちゃんも仲良くしてねー。」
「この後で歓迎会をしてもらうんです。」
「よかったねー。私も行きたいなぁー。」
「卒業生限定だから多分ダメだと思いますよ。」
「恩師枠で参加できない?」
「生きてる卒業生はユミさんのお世話になってないじゃないですか。」
「ダメかぁー。」
「展示されてる女の子たちのことはどう呼ぶのが正しいんですか?」
「『卒業生』ってなってるけど、みんなできるだけ名前で呼ぶよー。いい子たちだよねー。」
「最後に、入り口の鍵がアナログなのは何故ですか?」
「セキュリティーを考えてだよー。この部屋には私しか入らないからねー。今時ピンキングができる産業スパイもいないしねー。」
思ったよりまともな理由だった。
あまり長居すると「ユミちゃん」での練習時間が無くなるので、綾はもう一度姫の顔を見に行ってから、研究室を後にした。
気のせいか彼女が安心した安らかな表情をしているように見えた。
「また遊びに来てねー。」
ユミが手を振って送り出してくれた。
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